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美形パワーに見事に平伏した葉一は伊月と「まずはお友達から」交際を始めることにした。
とりあえずメール交換してみれば翌日に何度か他愛ないメッセージが伊月から届き、昼休みや小休憩時にせっせと返信。
昨夜と同じ時間帯にコンビニで会おうという文面を見た際には「うおぅ」と変な独り言が出た。
「葉一くん」
夜七時過ぎ、街角に建つコンビニのイートインでカフェオレとチョコスコーンをご馳走して、ちょっとだけおしゃべり。
「高二。部活はしてないよ。近くのマンションに住んでる」
「あのアイコン、飼い猫?」
「あれはトモダチの飼い猫」
普通の会話、普通のテンション、告白してきたときと同じく特に緊張もしていなさそうな伊月。
反対に葉一は馴染みのないイケメン高校生を隣にして内心どきどき、平静を装うのに一生懸命だった。
まるでおれが告白した方みたいじゃないか。
どこか腑に落ちないものの「ごちそうさまでした」と肘に肘をコツンされて礼を言われると「きゃあ~~」と胸が独りでに高鳴り、イケメン高校生クンに地味社会人が敵うわけがないと達観した。
「おれのどこがいいのかな。めちゃくちゃ普通で何の取り得もないけど」
「おにぎり熱心に迷うトコ」
「はは……」
「今度ごはん食べにいこ」
「う、うん」
「葉一くん、うどんとラーメンとそば、どれが一番好き」
「えっ。えーと。うどんが一番好き」
「あ。おれも。じゃあうどん食べよう」
「は、はい」
派手じゃない茶色に染められた髪はサラサラで。
睫毛が長くて。
繊細な手。
抑揚のない声。
透明感満載。
ブレない平行線テンション。
「葉一くん、またカレーうどん頼んだ」
ガチでおれがおにぎり熱心に迷うトコに惚れたのか、伊月くん。
告白されて、何回か会ってごはん食べに行って、これってもうデートの範囲に入るのか、伊月くん。
今年で二十六になるけど人生まだまだわからないことだらけだ。
おれまで寝る前に伊月くんのことばかり頭に浮かんで寝不足になるなんて思ってなかったし。
たまーに見せる伊月スマイルの虜になっちゃって、うん、困る。
「カレーうどん好きなんだ」
「うん。前は高速乗ってドライブついでにサービスエリアの有名カレーうどん食べに行ったこともあった」
「行きたい」
「え?」
「連れてって」
「あれ」
待ち合わせのコンビニへ車で向かって店内へ入った葉一は目を丸くした。
「ごほ……こんにちは、葉一くん」
昼過ぎ、ちらほら行き来する客にチラ見されている、雑誌コーナー前に立つ伊月はマスクをしていて声は掠れていた。
「風邪引いた?」
「インフルじゃないよ。昨日、早退して病院行って、風邪だって、薬飲んで……ごほっ」
いつものパーカーにスッキリめの白シャツ、細身のジーンズに赤コンバースを履いた伊月。
風邪引いてマスクしてもイケメンはイケメンだな、恐るべし。
「伊月くん、今日は遠出やめようか」
最近切ったばかりの黒髪、ボーダーシャツにチノパン、白スリッポンを履いた葉一の言葉に伊月は首を傾げた。
「どうして」
「風邪引いてるから」
「大丈夫」
「人多いところは避けた方がいいよ」
「行きたい」
「おれのウチで映画見るとか」
「行く」
「それ、どっち? カレーうどん諦めておれのウチ行く方?」
「そっち」
告白されて一ヶ月ほど経過していた。
自宅アパートに招待するのは初めてだった。
人目を引く端整な容貌にも大分見慣れてきて、胸キュン感も落ち着き、最初は掴みどころがなかった麗しのサイボーグの人となりもわかってきた頃で、風邪っぴきの高校生を連れ回すのもどうかと思って。
「葉一くん」
それがまさか押し倒されることになろうとは。
恋愛対象、つまり性的欲求の対象でもあることを思い知らされる羽目になるとは。
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