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「ナナくんって何考えてるのかわからない」
以前、伊月は二人の異性とお付き合いし、同じ理由で別れを切り出されたことがあった。
二人とも向こうから告白してきた。
交際期間はどちらも半年未満。
デートのお誘いどころか日常的メールすらろくにしない伊月に、周囲からちやほやされるモテルックス故に自信があった彼女達のプライドは総崩れ、ちっとも構ってくれない彼氏に愛想を尽かして早々と離れていった。
伊月は別に何とも思わなかった。
カラダの関係には至ったが特に執着して求めることもなく、来るもの拒まず去るもの追わず、二度の別れをあっけらかんと受け入れた。
呑み込みが早くて成績は良好、ただし高みを目指すようなヤル気はゼロ。
イベントには無関心。
趣味はうたた寝。
街頭でストリートスナップを求められたり、芸能事務所の名刺を差し出されたこともあったが、面倒くさくて全てお断りしてきた。
キャンパスミスコンで一位をとった大学生の姉に「伊月ってさぁ、生きてて楽しいの?」と問われた際には「生きてるって、何。生きるって楽しいことなの」と問い返して心底呆れられた。
「伊月さぁ、明日はいつもと違うことしてみたら」
「いつもと違うこと」
「退屈な毎日にちょっとした変化でもつくったら」
退屈の概念自体がイマイチわかっていない伊月であったが、姉のアドバイスに従い、次の日に「いつもと違うこと」というのをやってみた。
放課後、朝ごはんのおにぎりを買うため最寄にしているコンビニとは別のコンビニに行った。
普段は自宅マンションの手前にあるところ、その日はマンションの数メートル先にある違う店舗へ出向いてみた。
「それのどこが変化だ」と姉が知ったらまた呆れるに違いなかったが、伊月にとっては大いなる変化に値した。
郊外に建つ私立高校に通っているため、片道一時間以上かけて電車通学している伊月、よって自宅に帰り着くのはたいてい日暮れ時だった。
おにぎりコーナー前にはスーツを着た会社員らしき男が立っていた。
いつも決まって「和風玉子かけおにぎり」を買う伊月だが、今日は違う店舗であり、彼の脇から似たような商品があるかどうか探していたら。
「あ、すみません」
特に邪魔だったわけでもない彼はそう言ってわざわざ横にずれた。
次の日も彼はおにぎりコーナーの前で繁々と商品を眺めていた。
どうして毎回悩むんだろう、この人。
変わってる。
「あ、すみません」
また横にずれた彼の脇から昨日と同じ商品をとり、レジを済ませ、店を出て。
まーーだおにぎりコーナー前に立ってどれにしようか迷っている彼をガラス越しに見、伊月は、首を傾げるのだった。
それが葉一との出会いだった。
もしも姉が知ったら「は? おにぎり? なにそれ味気なさすぎ?」と大いに呆れ返るに違いない……。
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