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雛木先輩はかく語りき~2/3~

やはりサディストの友はサディストと言うべきか。カウンター越しにアナルセックスについて誠吾にしつこく尋ねられ辟易していたレイが、意地悪な入れ知恵をしたらしい。 「今ここに入るのを辞めたお客さんは雛木さんという方で、奴隷としてはあなたより先輩ですから、ご主人様に初めてお尻でいかせてもらった時の話を聞くといいですよ。私の友人がとても可愛がっている奴隷なんです。主人の名に泥を塗らないよう、台詞まで再現しながら、どれほど気持ちよかったか詳細に説明してくれるでしょう」 そう言われて誠吾は急いで雛木を連れ戻しに走った、ということだった。 つい最近までバックバージンだった誠吾は、性器も同時に弄ってもらわなければイくことができず、主人の不興を買っているらしい。「ケツにハメただけでイキまくる奴隷が好み」だと言われて落ち込んでいるのだと眉尻を下げられると、主人を満足させられない奴隷の悲しみがわかるだけに、雛木も同情を禁じえない。 だからといって、台詞まで再現しながら説明というのは意地が悪すぎるとレイを恨めしく見遣れば、 「雛木さんのマスターは、自分の奴隷が卑猥な言葉で一生懸命お尻の気持ちよさを語っていたと聞けば、きっとすごく喜びますよ。上手にできたら、あなたを褒めるよう私から彼に言っておきます」 と微笑まれて簡単に丸め込まれた。 「雛木先輩って元から男が好きなんすか?何回くらいヤったらケツでいけました?コツってあるんすか?俺前立腺ゴリゴリされるとうわぁぁぁってなっちまって、気持ちいいかわかんないままちんこ擦られて射精しちまうんすけど、ケツだけで最初から気持ちよかったっすか?」 畳み掛ける誠吾の言葉は粗野で下品ではあるが、その目は切実だ。 雛木はアルコールの力を借りようと、ビール三杯を続けざまに喉に流し込んだ。そして誠吾から視線を逸らし、酔いが回り始めた気怠さで、ぽつぽつと語り始めた。 途中で話の腰を折らないでくれよな、こっちも恥ずかしいんだから。……そうだな……元から男が好きだったかっていうと、そうかな。十代の頃は女の子とも付き合ったりしてたけど、大学以降は男としか寝てないから、セクシャリティは限りなくゲイ寄りのバイかな。 初めて男としたのは高校の頃で、それから何回くらいでお尻でイけたかは覚えてないけど、うーん……二十歳くらいの頃だったかなぁ……。相手はあいつだったっけな、って程度の記憶しかないことに、今喋ってて気づいたよ。今思うとその時のイキ方は全然生ぬるかったから、そんなにハマらなかったんだな。 君もわかると思うけど、後ろ使うのは準備も大変だし、後で大変な思いすることも多いから、中でイけた後も何が何でも挿れて欲しい!って気持ちにはならなかった。 その後も、前に触らずにいけることは滅多になくて、運が良ければ偶然いけることもあるって感じだったかな。ドライは当時経験なし。だからまぁその頃までの経験値は、今の君とそこまで差はないと思うよ。 で、SMに関しては完全に未経験だったんだけど、最後に付き合った男がちょっと乱暴な奴でさ。ネクタイで縛られたりお尻叩かれたり首絞められたりして、それが正直、結構興奮したし気持ちよくて、ね。それでSMに興味もったわけ。 だからネット経由でSMプレイしてくれる人探して、くど…じゃなくて、俺のご…ご主人、様……レイさん笑わないでくださいよ、そう呼び慣れてないの知ってるでしょ。まぁそう、ご主人様、と知り合ったのな。 って言っても、最初の頃は食事と飲みだけで、四回目で俺の方が我慢できなくなってホテルに連れ込んだんだけど。だって、これまでで一番興奮したセックスについてとか、好きなオナニーの仕方とか、そんな話ばっかりさせられながら上品なレストランで食事してたんだぞ、いい加減欲求不満になってたんだよ。 だから、手っ取り早くホテルに誘って、まずはフェ…フェラしようと思ったんだけど……何だよ、は?初心(うぶ)なわけじゃないっつの。フェラなフェラ。別にそれくらい言えるわ。単にくど…ご主人様にフェラって想像したらちょっと……うるさいなぁ、股間見るな。 とにかく、据え膳してヤってもらおうって軽く考えてたんだけど、きっぱり断られた。「私にも選ぶ権利はあります」って。結構ショックだったなぁ。 「生意気な野良犬を力づくで躾けるのも腕が鳴りますが、あなたと私は現時点ではあくまでも対等な人間です。あなたがプレイを望み、私が応えるのですから、あなたは丁寧に私にお願いするべきですし、私が応えるかどうかは、あなたが私にとって魅力的かどうか次第です。もちろん、あなたが私に魅力を感じないのであれば、今すぐここを出て行って構いません」 みたいなことを言われたんだよ、確か。 ホテルまで行ってそんなに冷静に話されると、妙に腹が立つというか。それまでに散々ネット上でもリアルでも色んな話はしてたから、俺はもうその人のことをほとんど完全に信用はしてたんだけど、現時点で自分に魅力がないってはっきり言われると流石にさぁ。 だから、最初は悔し紛れっていうか、この取り澄ました仮面を剥ぎ取ってやろうっていうくらいの攻撃的な気持ちで、お願いしますって頭を下げた。 今となってはマジであの時の自分どんだけ失礼なんだって冷や汗出るけどな。殴り倒して顔面を床に擦り付けて許しを請わせてやりたいレベルなんだけど、その時くど……ご主人様はまだ俺のご主人様じゃなかったから、それ以上の礼儀は求められなかった。 「今日はセックスはしませんし、あなたが想像するようなSMらしいプレイもしません。あなたが私のやり方に従いたいと思うのか、私があなたに魅力を感じのるか、お互いに確認するだけにしましょう。では、服を全て脱いでください」 みたいに淡々と言われて、プレイが始まった。ご主人様的にはそれは本当に確認だったんだろうけど、俺からしてみたら今でも立派にプレイだと思う。 その、プレイっていうのが……。 …レイさん、甘めのウィスキーをロックでいただけますか。あの、本当にそんな詳細に説明するんですか? た…しかに、一度言われたことをもう一度聞き返すのは無粋ですね……申し訳ありません……。 …奴隷モード入ったってなんだよ、しょうがないだろ、レイさんは俺のご主人様のご友人なんだから。プレイのこと考えたら…つい…。って、君だって奴隷なんだろ、もう。 で、だな……。ご主人様はスーツのままだったけど、俺は言われた通り全裸になって、ベッドの上で正座した。別に今更男の前で裸になるのが恥ずかしいはずもなかったんだけど、相手が服着てると妙に落ち着かないというか、自分が無力になった気がするっていうか。その時点で、自分が従う側だって無意識に思い始めてたのかもしれない。 全裸になった俺は、こうやって体の前で両手を手錠で拘束されたんだ。手錠って言っても、内側に低反発ウレタンみたいな素材がついてる、跡が残りにくいやつな。それで、手の平に鍵を握らされた。 一度外してみてくださいって言われたから、言われた通りに自分で鍵を差し込んで、手錠を外した。両手を繋ぐ鎖が結構長めだったから、自分でも簡単に外せたんだ。その鎖も透明の分厚いビニールチューブで覆われてて、皮膚や髪を挟んで怪我をさせたりしない作りだったから、本当に初心者向けの道具を用意してくれたんだって今ならわかる。 「この鍵はあなたの手の届く所に常に置いておきますから、安心してください」って言われて、鍵をかけ直されたんだけど、そしたらもうわくわく感しかなくてさぁ。安全だってわかったら、好奇心とか性欲の方が恐怖や緊張を上回るだろ。今思ったら完全にご主人様の手の内で踊ってるんだけど、俺はその時点で、もうすっかり未知のSMプレイに期待しまくってた。 でも、初めての手錠に興奮し始めた俺に、ご主人様は冷や水を浴びせるみたいに言ったんだ。 「外し方は覚えましたね。こうやっていつでも外して頂いて構いません。ただし、自分で外したらもう二度とあなたとはお会いしませんので、そのつもりで」って。 俺はびっくりしちゃって……。手錠も初めてだったけど、手錠を自分で外すのがそんなに重い意味をもつなんて考えたこともなくて……。それで黙り込んだら、 「はいかいいえか、きちんと意思表示をしてください。私は強制するつもりはありませんから」 って言われて、俺は初めて 「はい」 ってぽろっと素直に返事をした。本当に、ぽろっと出たんだ。それまでベッドの上で、「はい」なんて言葉遣いしたこともなかったのに。 そうしたらご主人様はホテルに入ってから初めて、ほんの少しだけ微笑んでくれたんだ。俺はそれが、無性に嬉しくて。そんな自分に戸惑ったのを覚えてる。 ギアが段階を踏んで切り替わって徐々に加速していくみたいに、いつのまにかご主人様のマスター感が増していってて、それを俺は自然に受け入れ始めてたんだ。何より、ご主人様は俺には指一本触れなくて、言葉遣いも終始丁寧だったから、これは勢いとか無理矢理とかじゃなくて、合意の上でのプレイなんだって余計に思い知らされていったんだと思う。 だから、「あなたの髪の毛を一本頂いてもいいですか?」って聞かれた時も戸惑いは大きかったけど、俺は「はい」って素直に答えた。そしたらご主人様は俺の後頭部から長めの髪の毛を一本抜いて、それの端を手錠の鍵に開いた穴に結び付けたんだ。 不思議に思ってただ見てたら、「手錠の鎖をご自分の首の後ろにかけられますか?」って普通な感じで聞かれたから、また「はい」って答えて、言われた通りやってみた。 俺は体は柔らかい方だったし、手錠の鎖も長めだったから、ほとんど苦労なく腕を頭の後ろに回せたんだ。それでビニールに覆われた鎖を首の後ろにつけたら、ちょうどこんな感じ、耳の下辺りで両手が固定された。 自分で腕をそこに持っていったのに、首の後ろを圧迫されながら腕も動かせなくなったのにすごく動揺しちゃって、俺はご主人様を不安そうな顔で見たんだと思う。ご主人様は、「一度腕を体の前に戻してみてください」って言って、俺の意思で腕が自由になることを確かめさせてくれた。 でも、今思うとそういう確認って、全部調教の一種だったんだろうな。実際俺は、いざとなれば逃げられるっていう気持ちのまま、自分の意思でご主人様の指示に従い続けた。 「落ち着いて、もう一度」って、人差し指をくいって上に向けて言われたから……ごめん、ちょっと、思い出しただけで格好良すぎて動揺した……手錠をかけられた腕をまた頭の後ろに回して、次の指示を待ったんだ。 ご主人様は手錠を入れてた革のボストンバッグから、金属製の大きいピンチ?お洒落な洗濯ばさみみたいなやつな、あれを取り出して、指で押す部分に手錠の鍵がついた俺の髪の毛の端を結びつけてぶら下げた。それで、「舌を出してください」って言われたから大人しく従ったら、俺の舌先をその金属のピンチで挟んだんだ。 ピンチは痛いほどはきつくなかったけどとにかく大きくて、口の中には納まらないサイズだった。だから俺の舌は出っぱなしになって、その舌先から髪の毛一本で手錠の鍵が揺れてる状態になった…。 「あなたは自分の意思でその拘束を簡単に外せることはわかりますね?いつでも抵抗し、逃げ出していいんですよ」 って。そんな風に言われてやっと、試されてるんだなってわかった。 舌をしまえなくて、口の中から唾液がどんどん溢れてきて。ピンチの下で手錠の鍵が揺れながら濡れていくのが、少し俯くと自分でも見えた。 俺はそれまでそんな風に人前で涎をだらだら零したことなんてなくて、めちゃくちゃ恥ずかしかったけど、ここで終わりにしたくないって気持ちがあって、抵抗しなかった。別に辞めたっていいはずなんだけど、俺はもっとその先を知りたかったんだと思う。 舌を出したままで息がしづらくて、段々肩で息するような荒い呼吸になっていったのを覚えてるな…。体が汗ばんできて、思うように力が入らなくなってきて、手錠の鎖を覆った分厚いビニールが首の後ろに強く食い込み出した。 その圧迫される感じや、囚われてる感じが、その、興奮して……。 俺は触られてもいないのに、ぼ……っき、してた……。 《続》

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