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本当に工藤さんはセックスしなくて平気なの?~それ以来~

朝日が白々しく差し込むラブホテルのベッドの上で、指一本動かせないほどの虚脱感に襲われ、このまま死にたいと思ったのは生まれて初めてだった。初体験の時ですら、重力が三倍になったような、肉体も精神も絞り尽くされたこんな脱力感は経験していない。 しかも、恐ろしいことに、目が覚めて咳き込んだ瞬間、嫌というほど覚えのある固い物がまたもや後孔に何の抵抗もなく差し込まれたのだ。 「後朝(きぬぎぬ)の別れならぬ、後朝の後戯ということで」 工藤が何を言っているのかわからない。だが、文句より先に雛木の口からはあられもない嬌声が迸っていた。 「ああんっ ああんっ いくぅうっ いくぅぅっ!」 筋力の限界を迎え動かないはずの腰が、またひとりでに揺れる。 「あぁ、また声が出るようになりましたね。すばらしい。睡眠は偉大な回復のメカニズムなのだと思い知らされます。さぁ、まだいけますね?」 優しげな工藤の声と共に再びリモコンでスピードを上げられ、雛木は身も世もなくよがり狂った。 「やだぁぁぁっ いくうっ! いくうぅぅぅっ!」 その日からしばらくの間、雛木はぼうっとしている時、口から無意識に「いくぅ…」と独り言が零れるようになっていた。その度に、はっと周囲を見回し、我に返って顔を赤く染める。 感じているわけでも、いきそうなわけでもない。だが、一晩中繰り返したのだろうその言葉は、口癖のように度々ポロリと零れ落ちた。 こんなの普通じゃないと思うが、自分の口が「いく」という動きと音に馴染んでしまっているのだ。 しかもそれを耳で聞き、口と喉に追体験させれば、身体は面白いようにあの夜の責めを思い出して欲情に震える。自分の体が工藤の責めに仕込まれてしまったことを、雛木は否応なく思い知らされていた。 ――だめだ、仕事中なのに、どうしよう…… 雛木はたまらず、給湯室に駆け込んだ。その先にあるトイレまでもたなかったのだ。 廊下と隔てる扉もなく、いつ人が入ってくるかもわからない狭い空間で、雛木は顔を隠すために辛うじて奥の壁に額を押し付け、両腕を後ろに回して、何かを思い出すようにつま先立ってびくりびくりと震える。 「いくぅ……いくぅ……!」 その声は幸いにも誰にも聞かれず、雛木はじわりと濡れた股間を握り締めながらずるずるとその場にしゃがみ込んだ。 一呼吸遅れて、他のデスクの若手の女の子が沢山のマグカップをお盆に乗せて給湯室に入ってきた。 「きゃっ え、あ、雛木さん?大丈夫ですか?」 股間の染みを見られるわけにもいかず、雛木はふらふらと立ち上がって、振り向かずに誤魔化すしかなかった。 「ごめん、貧血気味で。吐きそうだから、ちょっとだけ向こうに行っててくれる?」 名前も覚えていない後輩の女の子は給湯室から離れ、こちらへ向かってくる社員を健気にも「あのっ すみません!今ちょっと……」と押し留めてくれる。その隙に、雛木はスラックスの上から疼く秘穴に指を押し込み、罪深い絶頂感にぶるぶると震えた。 ――あぁ……!もう二度とガン突きされたいとか言わない。

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