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雛木君がハマった、黒くて細長いアレ ~反省&実践編 2/6~

ホテルの部屋の中心に電車のつり革が存在する光景は、雛木の理解を超えていた。 通勤時に毎日握っている電車のつり革のまさにそのものが、五つ並んでシルバーの金属パイプから下がっている。壁には新宿の特徴的な高層ビルが窓枠を模した四角の中に描かれており、車窓から見える景色なのだとわかった。描かれた景色は明るく、設定は真っ昼間らしい。ラブホテルだというのに、ベッドは小さく、狭い部屋の隅に申し訳なさそうに置かれていた。 それは明らかに、電車内での痴漢プレイを想像させる部屋だった。 ――どうしよう、想像以上に恥ずかしすぎる……。 つり革を挟むように長椅子が二つ置かれているのもリアリティがある。しかも、その背もたれが黄緑色なのが、より山手線を思わせた。 かなり拘った内装だ。酔いも手伝って、雛木は本物の電車内にいると錯覚してしまいそうだった。 しかし、通勤時を思い起こさせる車内の光景は、重大な事実をはたと雛木に気付かせた。急遽(きゅうきょ)工藤と会えることになったため、準備を何一つしていないのだ。とてもプレイを始められる状態ではない。 おずおずと、シャワーを浴びてきてもいいでしょうか、と声をかけようとする。だがそれより先に、工藤が口を開いた。 「日本を離れている間は、毎日あなたが送って下さった自慰動画を見ていましたよ。何度見ても見飽きない、素敵な乱れっぷりでした。けれど、やはり本物には敵いませんね。衣服を全て脱いで、私に早くアヌスを見せてください」 そんな風に言われて、従わない選択肢など雛木にはない。蛍光灯の白い光が余計に電車内を思わせる部屋の真ん中で、雛木はスーツの上下を脱いだ。山手線内そのものの座席に置かれた畳んだスーツは、まるで誰かの忘れ物のようだ。 ワイシャツを脱ぎ、タンクトップを脱ごうと裾を掴んだところで、「お待ちなさい」と声がかかった。 「なるほど、普段はそのような下着を身につけているのですね。子供と女性との(はざま)といったところでしょうか。……ふふ、倒錯的な色気がありますね」 工藤に笑われ、かぁっと体が熱くなる。調教を受け、大きく長くなった乳首を誤魔化すために、雛木は胸の部分に分厚い裏地がついた、バストが小さめの女性向けに作られたタンクトップを身につけていた。 工藤と会う時は、乳首が透けて浮き出す薄い下着を身につけるようにしているが、今日は予定外の逢瀬だったため、実用的な下着しか用意がないのだ。 調教され肥大化した乳首を隠している姿を見られるのは、不思議と直接乳首を見られるより恥ずかしかった。 「その、人の視線を胸に感じることが多くて……。意識したら更に立っちゃって目立つし……。そしたらもう仕事中でも、さ、触りたく、なっちゃうから、こういうの着てるんです……」 しどろもどろになりながら説明すると、工藤は小さく笑って「脱いでいいですよ」と許可をくれた。 隠していることを知られた上で脱ぐのは、やたらと恥ずかしい。しかも、ここしばらくは毎日毎晩かなり弄り倒してしまったので、乳首は酷く熟れて腫れ上がっているのだ。 乳首を虐めて自分を慰めていた証拠を工藤の視線に晒している。そう思うと、強力なサポート編みのパンツの中心までパンパンに膨らんでしまった。 熱を帯びた工藤の視線を感じながら、雛木はタンクトップもパンツも靴下も、全てを脱ぎ捨てて全裸になった。飛び出した勃起の根元は美しく剃毛され、工藤のイニシャルを刻んだコックリングが変わらずに鈍い輝きを放っている。 工藤と会えない日でも、毎日丁寧に剃刀をあてるのがもう習慣になっている。 だが、後ろの準備となればそうもいかない。本当は常に綺麗にしておきたいが、腸内洗浄は善玉菌も洗い流してしまうため、頻繁に行うのは良くないらしい。夜は結局自慰のために洗浄することになるのだが、せめて日中は中を休めるようにしていた。しかも今夜は飲み会からそのまま来てしまったため、シャワーすら浴びていない。 工藤の前では、犯され、いたぶられるための場所だった穴が、本来の忌避感を取り戻す。洗っていない汚い場所を工藤に見せるなど、耐えられない。 雛木はその場所を工藤に向けることがどうしてもできず、全裸でつり革に囲まれたまま、羞恥に身を竦ませた。 「主人に同じ事を二度言わせるのは感心しませんね。さぁ、早くアヌスを見せなさい」 久々の厳しい命令口調に、雛木の全身を恐れとは異なる震えが走る。 そうだ、自分の恥ずかしさやためらいになど、何の意味もない。何より大切なのは、工藤の命令だった。 雛木は意を決して四つん這いになり、頭を低く下げて工藤に向けて尻を突き出した。汚らしい場所をさらけ出すのは、あまりにも恥ずかしい。 だが、羞恥を堪えて命令に従った雛木に向けられたのは、予想外の冷たい声だった。 「……なるほど」 厳しく命じる声に滲んでいた工藤の高揚感は、完全に削ぎ落とされていた。代わりに、突き放すような冷淡さばかりが伝わってくる。 そんなに見るに堪えない状態だったかと、雛木はショックを受けた。 だが、工藤の口から続いたのは、思いもよらない言葉だった。 「確かに何の説明もなく会わずにいたのは私ですが、これは想像以上に(こた)えますね。私はまだあなたの主人のつもりでしたが、とんだ思い上がりだったらしい」 工藤の声は、聞いたこともないような苦渋に満ちていた。 雛木は驚いて向き直り、その表情に衝撃を受ける。 立ち尽くした工藤は酷く怒り、そして傷ついていた。 「なにを……工藤さん……?」 不安のままに問いかける雛木の言葉に工藤は答えず、視線を逸らした。 「私の奴隷でありたいと願ったあなたの言葉を、愚かにも信じてしまいました。 ……そうですね、あなたと私は主従である前に、あくまでもプレイメイトでした。私があなたを放置し、満足させられないなら、被虐心を満たしてくれる相手を他に求めても仕方がない。私に文句を言う資格はありませんね」 まるで雛木が浮気をしたというかのような言い様に仰天した。工藤を裏切るなどありえないのに。 なぜそんなことを言われているのかわからず、酔って回転が遅くなった頭で必死に考える。 もしかして、自慰のし過ぎで見るからにあそこが緩んでいて誤解を生んだのだろうか。 そんな激しい自慰だっただろうかと、雛木は慌てて記憶を辿った。 ――昨日は確か、乳首をクリップで挟んで、引っ張って……何回かイって……。それからお尻にスイング式のバイブを入れて……。 そこまで思い出した瞬間、雛木はすっかり記憶が飛んでいた自分の仕業に思い至り、青ざめた。 「違います!これは……!」 焦って説明しようとする。だが、工藤の冷え冷えとした言葉に遮られた。 「言い訳は結構です。ただのプレイメイトとはいえ、私はSMプレイを行う以上、自分の奴隷が他にも主人をもつことを好みません。しかも、よりによってそんな醜い痣をつけるような主人など。 ……出ましょう、服を着て下さい」 全くの誤解だと雛木は言い返そうとした。工藤の勘違いだ。ただのプレイメイトだなんて言うのは辞めて欲しい。最愛の奴隷だと、プロポーズだといってくれたのに。 だが続いた言葉に、文字通り雛木は殺された。 「リングは返して下さらなくて結構です。燃えないゴミにでも出してください」 息の根が、止まったと思った。 心も体も、呼吸することを忘れた。 心臓が拍動を止める音を、雛木は確かに聞いた。 《続》

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