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第2話
夏休みに入り、翼は受験に向け予備校や学校の特別補講で、忙しく過ごしていた。
甲子園地方大会二回戦。9回裏の攻撃。翔太のホームランで一点返したものの、その後が続かず、試合は4対1で終わった。
そして同時に、三年生は自動的に引退となる。翔太の短い夏は、あの日あの時に、終わったのだ。
あれから翔太とは会っていない。元々学校ではクラスも違うし、遊ぶグループも違うので、こまめに連絡を取り合ったりしなかった。
8月に入ってすぐ、翼の住む地域では夏祭りが行われる。
街の中心部にある大きな公園から、メインの商店街を山側へ突き抜けて、神社までの長い距離に屋台が並び、祭りの最後には花火が上がる。
翼もこの日は、いつもツルんでいる同じクラスの友達と、祭りに行く約束をしていた。
――翔太も祭りに行くのかな。
ふと頭を過る。でもきっと翔太は野球部の友達と一緒に行くだろう。
小学生の頃は一緒に祭りに行くのが恒例だったが、中学頃からお互い別の付き合いを優先するようになり、行動を共にすることも少なくなってしまっていた。
待ち合わせ場所に行くと、人混みの中に同じクラスの健と瑛吾の姿が見えた。
二人も翼の姿を見つけ、手を振った。
「お、ちゃんと浴衣着てきたやん」
「めんどくさいのに、絶対着てこいって言うたんは、健やろ」
「浴衣着てたら、もしかして可愛い浴衣の女の子、引っ掛けやすいかもしれへんやん」
「んな都合のええ話、あるわけないやろ」
どうでも良い話をしながら、三人でぶらぶらと屋台を見ながら歩いていると、前方に見覚えのある顔が見えた。
背が高いから、人混みの中に居てもすぐに分かる。
「翔太」
小さく呟いた瞬間、数メートル先にいる翔太も、翼に気付いて目が合った。
人の流れに逆らうように、翔太がこちらに近づいてくる。たったそれだけなのに、胸がドキドキと騒めいた。
「なんや翔太も来てたん」
そんな気持ちを知られたくなくて、さも何でもないふりをする。
うん。と、声には出さずに頷く翔太の後ろから、もう一人見覚えのある顔が覗き込んできた。
「あっれー? 翔太の幼馴染くんやん。名前は確か……翼くんやんな?」
軽い口調で話しかけてくる彼は、野球部のキャプテンであり、キャッチャーの水野良樹だ。たぶん、高校に入学してからは、翼よりもずっと長い時間を翔太と一緒に過ごしているだろう。
そしてその後ろから、ちょこんと顔を覗かせたのは、ロングヘアを可愛く結い上げた浴衣姿の女の子。
ヒュウッと、後ろから健が口笛を吹いた。
「こんばんは」
野球部のマネージャーの相田由美。
相田も、キャッチャーの水野も、翼と同じ学年で、顔と名前だけは知っている。
「野球部、この三人で来たん?」
他の部員は見当たらない。
翼の問いに「そうやで」と、答えたのは水野だった。
「おっ偶然! 一緒に回ろ」
後ろにいた健が、翼の前へと身を乗り出した。テンションが高いのは、たぶん相田に興味があるのだろう。
偶然一緒に行動することになったが、あまりの人混みに、最初は固まって歩いていた六人に少しずつ距離が空き始める。
一番前を歩いているのは翔太とマネージャーの相田。その後ろ姿を見失わないように歩いている翼の隣には、何故か水野がぴったりとくっついていた。
翼と水野が歩いているずっと後方には、健と瑛吾がふざけながら歩いているのが人の波の間に見え隠れしていた。気をつけていなければ、すぐに逸れてしまいそうだ。
しかし翼は後ろよりも、ずっと先を歩いている二人の後ろ姿が気になっている。
「前の二人が、気になる?」
隣を歩く水野に突然そう聞かれて、ドキリと心臓が跳ねた。
「え? まさか……俺、相田さんのこと、あんまり知らんし」
「嫌やなぁ、ちゃうよ。由美のことやなくて翔太のこと」
「え? なんで」
「まぁええわ。な、それより、あれせーへん?」
水野が指をさした方向には射的の屋台がある。
「ええけど」
「お、よっしゃ」
水野は前を行く二人に手を上げて大声で叫ぶ。
「おーい、翼くんと、これするからー。ちょっと待ってー」
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