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第4話

 公園に並んでいる屋台の裏手の奥、隅の方に手洗い場がある。  蛇口から出てくる水を指に当てる。あまり勢いよく水を出すと、却って痛い。 「大丈夫か?」  翔太が心配そうに、翼の顔を覗き込む。 「うん。でも、この水、生ぬるいな」 「そうか。ほな俺、どっかで氷貰ってきたる」 「え? そんなのええよ。水だけで充分やって」 「ええから。ちょっとここで待ってろよ」  そう言って、走っていってしまう翔太の背中を見送りながら、翼は小さく溜め息をついた。 「あー、俺、めちゃドン臭い」  翔太に迷惑を掛けてしまっている事に、ものすごく落ち込んだ気分になる。  暫くして、翔太がビニール袋に小さな氷をいっぱい詰めて戻ってきた。それを広げたハンカチで包んで、指に当ててくれる。 「どこで貰ってきたん?」と訊けば、「缶ジュース売ってる屋台。事情説明したら快くくれたよ」と、あまり表情も変えずに、どうって事ないと言う感じで答える。 「どうや?」 「うん。冷たくて気持ちええ。痛いのもマシになってきた」 「そうか。良かった」  その後、少しの間沈黙が流れた。意識してるわけでもないのに、何故か胸がドキドキと騒めく。  向かい合って立ったまま、翔太は翼の手を支え、もう片方の手で氷の袋を指に当ててくれている。――距離が近過ぎるのだ。気づいてしまうと、余計に胸がドキドキしてくる。 「浴衣、似合ってる」  俯いて、氷で冷やしてもらっている自分の指を見つめていた翼の頭のすぐ上から、翔太の声が落ちてくる。 「な、何言うとん、恥ずかしい」  顔を上げれば、間近に翔太の目と視線が絡んだ。切れ長で、どちらかと言うと、いつもクールな印象の瞳が、今は暖かい色を浮かべている。  顔が熱くなる。胸のドキドキが激しくなる。 「も、もう大丈夫や。ありがとう。氷、自分で持つから」  パッと、翔太の手から氷の袋を奪い、一歩後ろへ足を引き距離を空けた。  何か話さなければ! 今までそんな事を考えた事は一度もない。だけど意識しだしたら、余計に何も言葉が見つからない。 (何、焦ってんだ俺。落ち着け……)

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