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第5話

「そ、そう言えば、翔太は進路どうするん? やっぱり大学行っても野球するんやろ? またどっかから誘いとかきてるんちゃうん?」 「あぁ……」と、翔太は困ったように頭を掻く。 「実は、W大のセレクション、受けてみーへんかって、監督に勧められてる」 「え? それってスポーツ推薦みたいなやつ? 凄いやん! しかもW大学!」 「でも、うちの野球部、地方大会で二回戦敗退やしな。来週のセレクションに合格した上で、9月にAO入試受けなあかんけど」 「来週なんや! セレクションもAOも、翔太なら絶対合格するわ!」  今度こそ翔太が野球の強いところで、活躍できる。そう思うと、翼は自分の事のように嬉しくて、興奮していた。  だけど、そんな翼を見つめる翔太の瞳が、ふっと寂しそうに陰る。 「でも、まだ悩んでる……セレクションを受けるかどうか」 「え? なんで!」 「翼は寂しくない? W大は東京やし、野球部に入ったら、夏休みも、そうそう簡単に帰って来れへんし、来年からは夏祭りも、こんな風に偶然にでも行けなくなるんやで?」 「それは寂しいけど……」  そうだ。よく考えたら、翔太には、もう今までみたいに会えなくなる。それは寂しい。それでも、野球をしている時の翔太が好きだから。 「でも、せっかくのチャンスやん。翔太、高校選ぶ時も、甲子園出場確実な地方の高校からの誘い蹴ってたやろ? 俺、勿体ないって思っててんで? なんでやりたい事やらへんのやろって」 「じゃあ聞くけど、翼は写真撮るの、あんなに好きやのに、なんで写真部に入らなかったんや?」 「俺は……」  翔太の写真を撮るのが好きなだけ……とは、言えない。 「俺の写真は、ただの趣味やん。一緒にしたらあかんわ」  その時、ぱんっと、言う音と共に、辺りが明るくなった。公園の南側広場で、祭りの最後を締めくくる花火が上がったのだ。  本当なら、山側の神社まで続く屋台を回り、高台に位置する神社で花火を見る予定だった。 「俺は、翼と離れたくない……」  ぱん、ぱん、ぱんと、連続で音が鳴り、夜空に色とりどりの花が広がる。翔太の言葉が音にかき消された。最後の方が聞き取れなくて、聞き返す。 「――えーー?」 「俺は、この街も翼も好きなんだ! だから、離れたくない」  今度は、はっきりと聞こえた。  ――好きなんだ。だから…… 「……違う……」  翔太の言う好きは、翼の想いとは種類が違う。 「――え?」  今度は、翔太が聞き返した。 「お前、もしかして高校受験の時も、そんな理由で地方の私立校、蹴ったんか?」  翔太が何も言わずに、ふいっと視線を逸らす。  カーッと、頭が熱くなる。 「好きとか、言うな! アホ!」  胸の奥が、痛い、痛い、痛い。頭の中がぐちゃぐちゃで、何故か腹が立ってしょうがない。 「翔太の好きと、俺の好きは意味が違うんや!」  自分でも、何を言っているのか分からなかった。  呆気に取られた顔で、翼に視線を戻した翔太の顔へ、両手を伸ばす。  パシャっと、氷の入った袋が地面に落ちた。氷が指から離れた途端、血豆がジンジンと熱く疼く。  構わず、翔太の頬を両手で挟み、その唇に夢中で自分の唇を押し付けた。  その瞬間、また連続で花火の上がる音が辺りに響いて、公園の隅の暗がりに立つ二人を、明るく照らした。  数秒間、押し付けただけの唇を離し、翼はパッと後ろに退いた。 「俺の好きは、こういう好きなんや! 俺は、翔太のこと、こんな風に好きなんや! だからずっと一緒になんかおられへんのや! 離れなあかんのや! 早よ進路決めて、東京でも何処でも行けや!」 「……翼」  一歩、足を踏み出して、何か言いかけた翔太から顔を背け、翼はくるりと踵を返した。 「絶対、受けろよな。セレクション」  そう言って、そのまま後ろを振り返らずに、一目散に走り出す。 (あー、もー、何言うてんのや、俺!)  自分の言った言葉を思い出して、考えれば考えるほど、後悔が胸に押し寄せてくる。  慣れない下駄が走りにくい。指が痛い。頭が痛い。――だけど、胸の奥が一番痛かった。

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