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第6話
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夏休みが終わり、慌ただしく日々が過ぎていく。
あれから、翼は翔太と口を利いてない。時々学校の廊下で翔太の姿を見かけると、さっと隠れて会わないように避けていた。
――『W大、行くことになった』
9月の終わりに、一度だけ携帯にメッセージが入っていたが、翼はそれをプレビューだけで読んで、既読を付けていない。勿論、返事を返すこともしていなかった。
どんな言葉で返事を返したらいいのか分からなかった。もう会うこともできない幼馴染に。
ただ思うのは――「忘れよう」と、いうことだけ。
受験生には、クリスマスも正月もない。
「神頼みしたって、あかんもんは、あかんねん」
と、家に閉じこもりがちだった翼を、元旦の朝、健と瑛吾が迎えにきて、初詣に引っ張り出した。
「受験生が初詣行かないで、どうするん。息抜き、息抜き」
引いたおみくじは、『中吉』だった。
「微妙やなぁ」
「そんなことない。普通やん。普通が一番やで」
そう言って笑う健は、ちゃっかり『大吉』を引いていた。
でも、ふと思う。――そうやな、普通が一番。
相手を想ってドキドキしたり、落ち込んだり、胸が痛かったり。そんなの苦しいだけだ。どうせ実る事のない想いを抱えているよりも、気の置けない友達と一緒に遊んでる方が、楽しいに決まってる。
1月13日からのセンター試験。
翼は、センター利用で滑り止めの大学は合格した。だけど、本命は2月15日の一般入試。少し自分の実力よりも上の大学を狙っていた。
『翼って、相手が興味持つように上手いこと教える素質があるから、学校の先生とかになればええと思う』
前に将棋を教えた時に、翔太に言われたことがある。それが頭から離れなかった。それまでそんな事を考えたこともなかったのに。
自分でも出来る事があるかもしれない。翔太のように頑張りたい。そんな風に考えるようになれたのも、翔太の言葉があったから。
「俺、全然吹っ切れてないやん」
予備校の自習室で、正しく時間を計って解いた過去問の採点をしながら、翼はポツリと呟いて自嘲した。
一般入試の前日、一時間の特別補講の為に学校へ行くと、2月からは自由登校になっているのに、意外と多くの生徒が登校していた。
「だって、今日はバレンタインやん」
健が嬉しそうに言う。
「貰えるって期待してるんか? 幸せなやつやな」
俺には関係のない話だと、翼は苦笑いを零した。
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