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第3話
ぼんやりとしていたから、晴翔の話を思い切り聞き逃してしまっていた。
「いつにも増してぼんやりしてるな、お前」
「俺、いつもそんなにぼやっとしてる?」
してる、と頷く晴翔。葵さんの事を思い出すと、甘ったるくも優しい幸せな記憶と。特別になれなかった切ない気持ちが込み上げて、泣きたいような気持になる。
「乾杯しようよ、乾杯。な!はい、お疲れ様」
ごちん、とグラスがぶつかる音。晴翔はビールで苦いのが苦手な俺は甘い酒。
「何食べようか。腹、減ってる?」
誤魔化す様に笑いながらメニューを見せている内に晴翔は諦めた様に溜息をついてページをめくり始めた。
酒が進むに連れ、話の矛先は恋愛話へと向いた。
「晴翔んちは?結婚とかせっつかれる?」
「親は心配してるみたいだけど、最近はあんまり言われなくなったな。お前は?」
「2人とも心配してるみたいなんだけど。孫は無理かなと思ってる」
結婚は不可能ではないけれど、難しいだろうな。
「お前は、好きな人いないのかよ」
葵さん。過去の人だけど、一番心を占めてる人。今でも思い出すと切なくなるし、忘れられない大切な人。でも、現在好きな人ではない。
「今はいない、かな…」
思い返せば、俺から告白した事ってない。
気が付けば、なんとなくつき合っていただとか。体の関係から入るだとか。そんな事が多かった。勿論、つき合ってる時は相手の事は大好きだったけど。
そもそも、俺ってちゃんと恋愛してたのかな。
もし、付き合えたとしても長続きできる自信がない。
俺ってもしかして、人のこと好きになれてないのかな。
葵さんの顔が浮かび、抑えきれなくなった涙が零れる。
きっと酒のせいだ。
くちゃくちゃに畳まれたおしぼりを取って目元を拭いながら「ごめん」と謝る。
晴翔は「大丈夫か!?俺がきつい言い方したからか?水飲むか?もう帰るか?」と、目の前でおろおろしてる。
「違う、大丈夫。いろいろ、思い出しちゃって。すぐ、おさまるから。ごめん」
言ってはみたが涙は止まる気配もなくて。
泣き出したら、ついでに蓋の感情が開いてしまい、すぐ、と言ったのに全然収まらなくて。結局そのまま解散になってしまった。
晴翔と別れてから、帰り道に懐かしさに葵さんから貰ったメールを開いた。他の人のは全て削除したのに、彼のだけは捨てられずに取ってあった。そのメールは「ちゃんと寝てるのか。食事はとれてるのか」と、そんな心配ばかり。それに対する俺の返信は「心配してくれてありがとう、大丈夫。そっちは仕事大変じゃない?」などという、可愛らしい健気な返事ばかり。
何、気遣ってんだか。
苦笑しながら携帯をしまい込み、思わずため息を零す。
そして、どうしても帰る気になれなかった俺は、ある場所へと向かった。
「一至君、久しぶり」
この声に出迎えられるとホっとするようになったのは、いつの頃からだったか。
晴翔には好きな人はいない、とは言ったが、実は俺には気になっている人、がいる。気になっているというより、気を許しているという方が正しいかもしれないけれど。
それが今、俺に笑みを向けている伊月さんという男の人だ。
俺よりも5つ年上のこの人は、この店の雇われ店長であり、バーテンダーでもある。
伊月さん、いつもと髪型が違う。
「雰囲気、いつもと違うね」
いつもは襟足まで届く長めの髪をそのまま垂らしているのだが、今日は前髪を軽く上げている。伊月さんは上背がってカッコいいので何をしても様になるが、いつもの方が俺は好きだ。
「たまには雰囲気変えてみろって、髪型変えたんだけどね。変?」
「変…っていうか……違和感」
「不評ですね、店長」
今にも噴き出しそうな笑いを湛え、俺の横からメニューを差し出してくれたのはウェイターの宮田さん。柔和な笑みを浮かべながら伊月さんを揶揄るこの遣り取りはいつもの光景だ。
メニューだけ置いてすぐ仕事へと戻っていく。
「改善の余地あり、だな」
「いつもの伊月さんでいいのに」
「いろいろあるんだよ、こっちも。今日はどうする?」
そう言って優しそうに笑う伊月さんは、物腰が柔らかくて話し上手な上に聞き上手。水商売だから、というのもあるだろうけれど、お陰で伊月さんは男女問わず良くモテる。
元々ここは葵さんと一緒にいた頃に出入りしていたバーなので、葵さんと俺との関係は伊月さんも良く知っている。葵さんがいなくなったことも。
俺が落ち込んでいた時は、話を聞いて慰めてもくれて。
あれは、俺が顔見知りの相手だったから親切にしてくれたのだろうと思うけれど、それでも俺はとても嬉しかった。
そして、今では楽しく会話ができるくらいに親しくなった。
伊月さんの問いかけに、迷った挙句にノンアルコールでもいいか、と聞くと伊月さんが心配そうな顔をする。
「体調でも悪い?」
「いや、さっきまで友達と飲んでたとこでさ。解散しちゃったんだけど、帰る気にならなくて…」
「お茶でも出そうか?」
心配そうな伊月さんに、思わずふっと噴き出して笑ってしまった。
この人と話してるとなんでホっとするんだろうな。
「大丈夫だよ、伊月さん」
「一至君はたまに無理するから」
目の前でグラスの中に液体が注がれていく様を眺める。
バーテンダーなんだから当たり前かもしれないが、伊月さんはシェイカーを振る動作だとか、グラスに注ぐ動作だとか、全てが様になっている。
これも修行の賜物ってやつなのかなあ。
「明日は早番?」
「ん。…残念ながら…これ飲んだら帰るよ」
ゆっくりしていきたいところだけど、残念ながら明日は朝が早い。憂鬱だなぁ、と思いながら置かれたグラスに口を付け始めると。
「こんばんは」
隣からの声に顔を向けると、見覚えのある顔。
「神崎さん!お久しぶりです」
スーツ姿でにっこりと笑った神崎さん、という男の人。伊月さんの学生時代の先輩で遊び人、というのが俺の中での情報。実は自棄になっていた時期に関係を持ったことがある人なのだけれど、その時は伊月さんの知り合いだなんて知らなくて。後から知らされてびっくりした。
「久しぶり。元気にしてた?」
そう言いながら手を伸ばして俺の耳に触れてくる。ほんの些細な仕草だったが、指の動きが妙にセクシャルで思わず体を揺らしてしまった。
神崎さんはこうやって人前でも平気でちょっかいを出したり口説いたりしちゃうような人だ。
「…神崎さん、一至君のことあんまりからかわないでくださいよ」
伊月さんがカウンターの向こうから呆れたような顔をしている。
「なんだよ、玲一。客の事情に口を出す気か?」
玲一(りょういち)。聞き慣れない名前に一瞬、ん、と思った。そうだ、伊月さんの下の名前だ。
「上手に遊ぶ分には構わないですけど。その子からかうのやめて貰えます…?」
「可愛くねェ後輩だな。何だよ、この子がそんなに気になるのか?」
ニヤニヤと笑う神崎さんと対称的に冷めた表情の伊月さん。口の上手い伊月さんだけど、この人の方が一枚上手。
「別に俺がこの子を誘おうが、それでこの子が付いてこようが別に構わないだろ?大体さ、知ってる?ワンコちゃん。こいつだってな、学生時代凄いモテて…」
「神崎さん!」
伊月さんが焦ったように声を荒げるが神崎さんは悪びれもしない。「俺と来る?」などと言いながら、俺の耳に触れていた手を移動させて髪を梳く様に撫でた。襟足に触れられると擽ったいのでやめて欲しい。
「あの、前々から言おうと思ってたんですけど。俺のことワンコちゃんっていうのやめて欲しいんですけど…。それと、俺、ついていかないですし…」
神崎さんはこんな風に上辺は楽しくて優しい人だけれど、もの凄い割り切った付き合い方のできる人だ。だから危険だと分かってはいるのだが、1度関係を持ったことがある手前、今一つ強気に出られない。
「いいじゃない、ワンコちゃんって呼び方可愛いから。釣れないねェ、彼氏でも出来た?」
「出来てません…」
「だったら、たまには俺の相手もしてくれてもいいだろ」
「神崎さん、俺じゃなくたって相手に困らないじゃないですか」
「それはそれ、これはこれ。明日は仕事休み?」
「朝から仕事です!」
ああ言えばこう言う。いよいよ返答に困って逃げ出したい気持ちでいっぱいになっていると、見かねた伊月さんが助け舟を出してくれた。
「先輩、飲むんですか…?飲まないんですか…?」
「なんだよ。俺が口説いてるのがそんなに気になるのか?」
「出入り禁止にしますよ……?」
伊月さんの声が冷え切ろうが、神崎さんは気にもしない。
「この店に来なくなったら裏で口説いてるかもよ?ここで見張ってる方がまだマシなんじゃないのか?」
「なんでもいいんで、その子からさっさと離れて貰えますか」
「ほんと、お前は昔から可愛くないな。じゃ、おっかない人に怒られるから、またな。寂しくなったら連絡して来い」
神崎さんは多分本気じゃない。それは伊月さんも俺も分かってはいるが、もし俺が「行く」と言った日には本気にされるだろう。神崎さんは俺と伊月さんをからかって満足したのか、俺の頬に軽くキスを落として立ち去って行った。が、店の別の場所で誰かと話している辺り全然凝りていないように思う。そんな姿に伊月さんも。
「あの人も懲りない人だな、全く…」と溜息を零した。
「伊月さん、助けてくれてありがと」
「一至君、あの人はね。ただの変人だからついて行かない方がいいよ。……それとも……。…ついて行きたかった?」
伊月さんは、俺と神崎さんのことも無論知っている。こんな風に聞くのは伊月さんが俺を心配してるからだ。
「今……は…、思わない」
あの人は良くも悪くも遊び慣れている。今は断ったが、どうしようもなく寂しくなってしまった時だったら、人恋しさに甘えてしまう事もあるかもしれない。
そんな自分の可能性を俺は否定できなくて、歯切れ悪く答える俺に伊月さんは苦く笑う。きっとこんなどうしようもない俺に呆れているんだろうな。と心が痛んだ。
グラスに視線を落としてぼんやり眺めていると、伊月さんが不意にしゃがみこみ、カウンターの下から黒い何かを取り出した。ぬいぐるみ、かな?
「一至君、これあげる」
「…これ、何…?」
「カワイイだろ。ゲーセン行ったら、偶然取れたんだよ」
「伊月さん、ゲーセンなんて行くの?」
意外だ。伊月さんと言えばオシャレなイメージしかないので俗っぽいゲーセンなんて無縁だと思っていた。目を瞬かせてまじまじと見つめると、茶目っ気たっぷりに笑われて、その表情にドキっとした。
「たまたまね。普段は行かないけど、うちのスタッフに欲しいものがあるから一緒にいってみないかって言われて。やったら偶然取れたんだよ。案外面白いね、あれ」
昔、飼っていた黒猫に良くにたくりくりの丸い目。カッコイイ伊月さんが猫のぬいぐるみを持っている図を想像してちょっとおかしくなった。
「伊月さんが、ぬいぐるみ…」
「いいだろ?俺がぬいぐるみ持ってたって。いらない?」
気にかけてくれるのは嬉しいけど、20代後半にもなろうという男に猫のぬいぐるみはどうなんだろう。俺は貰う分には喜んで貰うけど。
「俺のこと、子供だと思ってない?」
「子供は、多分こんな店に来ないし。あんな怪しげな人についてったりしないんじゃないの?」
反論めいた言葉を口にする俺に、伊月さんも言い返す。
「そういうの、揚げ足取りっていうんだよ」
「で?いるの、いらないの」
「いる!……ありがとう…」
こんな些細な事が寂しさでいっぱいの今はとても嬉しい。
伊月さんは、優しい。優しいから、期待してしまいそうで困る。
もらったぬいぐるみは案外大きくて鞄に入らず、ぬいぐるみをぶら下げて帰る俺を見て伊月さんは笑っていた。
もしかして俺、それも見越して渡されたんだろうか。まさかね。
楽しい時間はあっという間。
伊月さんのお陰で心の隙間は埋まったように感じた。それなのに、家に帰ったらどっと寂しさが襲ってきて。貰ったばかりのぬいぐるみを持ったまま泣いてしまった。
俺の涙腺は、昨日からぶっ壊れっぱなしだ。
泣き疲れて眠ったのは深夜2時を回ってからだった。
精神的なもののせいなのか、疲れが抜けず翌朝はカラ元気で店に出た。
店は午前から夜まで店を開けている。そのため、遅番と早番があるのだが、今日はよりにもよって早番の日。初夏の爽やかな風が吹いている季節だというのに、体が重たくて仕方がない。
「おはよーございます」
「おはよう。…茅野君、顔色悪いよ?大丈夫?」
声をかけてくれたのは、店のオーナーの奥さんだ。
本店から手伝いに来てくれているのだが、この人もまた人をホっとさせる才能の持ち主。
店の男性陣は変化になかなか気づかないが、奥さんは流石女性というか、上に立つ立場だからか、ちょっと具合が悪くてもすぐ気が付いてくれる。
「昨日、ちょっと飲みすぎちゃって」
「珍しいね、茅野君そんなに飲まないのに」
「たまにはそういう時もあるんですよ」
「何だ?二日酔い?」
「…まぁ…そんな感じです」
話に先輩が加わり、店の中が賑やかになった。俺の働いている店はカフェと併設してケーキとかスイーツを販売していて、週に1度だけ定休日がある。
カフェの方はしっかりした食事を提供するので男性も来るけれど、客層は女性が多め。そして、女性受けを狙ってウェイターには男が多く、スタッフも男性比率が高い。
俺がいる販売の方の客層は、男女比も年齢もバラバラ。スタッフの方も半々と言ったところ。
今日は早番なんだからさっさと寝てしまえば良かったのに、と今更後悔する。立ち仕事にこの疲労と眠気はなかなか堪える。早く定休日、来ないかな。
欠伸をすると先輩に「目ヤニついてるぞ」と怒られて1度顔を洗いに行った。
お昼のピークを過ぎ、止まらない欠伸を繰り返しながら休憩室でお茶を飲んでいると「お前あてにお客さん」と呼ばれた。
この仕事をしていると調理担当が呼ばれることはあるけれど、接客担当が呼ばれることってまずない。
誰だろ?知り合いでも来たのかな。と思って顔を出すと、意外な事にそこにいたのは伊月さんだった。
「どしたの?」
「どうって、ケーキ買いに来た」
「…それは、分かる…けど。なんでうちに…」
明るいところで見る伊月さんは、いつもと雰囲気が違った。白い麻のシャツとジーパンというラフな格好がとても様になっている。彼が店に来るのは初めてではないが、昼間に会うと自分の知られていない一面を見せるようで恥ずかしい気分になる。
気まずくてショーケースに目線を移して誤魔化そうとすると「大丈夫?」と聞いてくる伊月さん。思わず顔を見て首を傾げた。
「昨日、元気なかったみたいだから」
一応、俺としてはそんな素振りを見せないように頑張ってたつもりなんだけど。そんなに落ち込んでるように見えただろうか。
嬉しさと恥かしさが同梱し、赤くなりながら首筋を摩った。
「…もしかして…。それでわざわざ来たの…?伊月さん甘いもの得意じゃないのに」
「税理士の先生に差し入れする予定があってね。せっかくだから一至君の顔見てこうかな、と思ってさ」
伊月さんはこういう台詞をサラリと言うし、それがまたよく似合う。いつも優しい人だけど、こんな風に言われるとちょっと意識してしまう。
ケーキを買うお店なんて、いくらでもあっただろうに。
「え…っと…どれにする…?」
恥かしい時はさっさと話を進めるに限る。
ちら、と顔を見ると伊月さんはショーケースの中のケーキを眺めて真剣な顔をしていた。そして。
「どれがいいと思う?」と俺に聞く。ショーケースの中には定番の白や茶色に加え、赤から黄色、緑に水色に至るまで様々な色のケーキが並んでいる。
「相手の人の好みとかは?」
「甘いもの大好きだからなぁ。なんでもいいと思うけど。チョコレートとワインは好きって言ってたな」
ワインが好きならチーズも好きそうだ。ショーケースの上から、これとこれとこれ。と順番に名前を読み上げる。
「ケーキの名前って難しいよな…チョコケーキだけで3種類もあるし」
「何言ってんの。お酒だって名前複雑じゃん。そっちの方が名前多いし」
「そうだけど。ケーキって名前が複雑じゃないか」
そうだろうか?お酒の方が種類も組み合わせも多くて覚えるだけで頭が痛くなりそう。
「味もちょっとずつ違うよ。こっちがビターでこっちは甘いやつ。その人チーズとか好き?」
「多分?店で食べてるから好きだと思う」
「なら、後はチーズケーキかな…。それと、季節限定のが今のオススメ」
一応店の手前、オススメです。という表記があるものも推薦しておく。
「じゃ、それ全部。因みに一至君はどれが好き?」
「そんなに買うの?…俺はイチゴのショートかなぁ」
オーソドックスだけれど、シンプルで一番おいしい。チョコケーキより俺は生クリーム派だ。
伊月さんは、何故か小さく噴き出して「似合いそう」と言った。どういう意味なんだか。
「伊月さん、俺のことやっぱり子供だと思ってるよね」
「一至君、イチゴは最後に食べるタイプだろ」
「なんでわかんの…」
ショーケースから顔を上げ、クスクスと笑う伊月さん。
女性客の多い中、背が高く、俺から見てもカッコイイ伊月さんの存在はとても目立ち、周りの女性の目を引いた。因みに男の目も引くらしく、俺の隣で箱を用意している新人の男の子までぽやっとした顔をしている。
そんな人が自分と知り合いだと思うと誇らしいような恥ずかしいような。
結局伊月さんは俺が教えたケーキを本当に全て買い、ショートケーキに至っては3つも買うと言った。
「3つも…?」
「そっち、箱別にしてくれる?店に持って帰るから」
「え、伊月さんも食べるの?」
「たまにはな。俺はイチゴ、先に食べるけどね」
何を張り合われているのかよくわからないが、とても楽しそうな伊月さんは、またね、と言いながら爽やかに店を後にした。店のドアを潜った後、もう1度振り返った伊月さんに手を振った。
「ねぇねぇ、今のカッコいい人誰?茅野君の知り合い?」
バックヤードから様子を眺めていたらしい奥さんが、ウキウキした様子で聞いてくる。奥さんは伊月さんを初めて目撃したみたいだ。やっぱり伊月さんってカッコイイんだな、と改めて実感する。
「俺が行くお店のバーテンダーさんなんです」
「どうりで、オシャレな人だと思った。あんな人がいたら飲みに行っちゃうよねー」
奥さんは笑顔を浮かべながら、私も行っちゃうなァ。と楽しそうに言っていた。お店のことを教えようか迷ったが、俺の事情を知られるのは大変困るので言い出すのはやめた。
「はー…やっぱ、ここら辺の人ってカッコイイすよねェ。都会はオシャレな人多いわ、うん」
先程箱を用意しながらぽやっとしていた、まだ19歳の若きパティシエの八木君。ちょっと言葉遣いがなっていないが、若さとキャラで許されている、底抜けに明るいポジティブな奴だ。
「髪型とか服装もオシャレっすもんね。ねね、俺らも制服とか、かっこよくしません?」
「スタイルもいいけど、まずは基本ができてから!!自分でお店を出す時になったら考えてもいいよ」
「はーい」
この店にいる従業員は全部で10数名いるけれど、、人数は結構ぎりぎりだ。こんな風にのんびり話せるのは客足が少ない時だけ。
奥さんすいません。ドライアイスをサービスしてちょっと多めに入れてしまいました。許してください。
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