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鬼の形相 05
「百歩譲って今回は仕方ないとして。
次からはちゃんと連絡して。いい?」
「わーーっかってる!」
「絶対だよ!?」
「はいはい、わかったってば」
尋問のような湊の問い詰めが終わり、ようやく部屋の奥へと通してもらえた。
それでも湊は何度もこの念押しを繰り返しながら後ろをついてくる。
久々の過保護っぷりだ。
面倒だから何があっても次からは絶対一言連絡を入れようと心に決める。
「そういえば大神....って生徒会長のあの大神先輩?」
「そ。そいつ」
「ふーん、そう....じゃあお礼言いに行かなきゃ」
「っ!?待て待て待て待て!」
「?」
「どこに行こうとしている!!?」
「えっ....どこって....先輩のところだけど?」
「今から!?
行くな!というか行かなくていい!!」
湊の思いつきにギョッとして慌てて阻止する。
湊が大神に接触なんかしたら絶対余計な情報が漏れ出る。
況してや昨晩のお礼など死んでも言わせるもんか。
なぜあの黒歴史にお礼をしなければならない。
なぜ自分から黒歴史を肯定しなければならない。
ありえん。
しかもあの一件が湊に漏れてバレたもんならまた話がややこしくなる。
それであの過保護ぶりを発揮されては次こそ小1時間は
開放してくれないお説教が始まる予感しかない。
させるもんか。
.....ってあれ、なんでそんなバレたくないんだ。
恥ずかしいから?
思い出したくないから?
それとも....
ドキッとしたことを知られたくないから?
気持ちよくなってしまったことを知られたくないから?
......。
いやいやいやいや、ありえない。
だめだ。
忘れよう。
一瞬浮かんだ考えを奥底に押しやる。
無理矢理ヤられて気持ちよかったとかあってたまるか。
そんな事実はなかった。
必死で説得し、30分の押し問答を経て漸く湊は諦めた。
しっかりお礼を言っておくことを条件に。
そして翌日。
借りた服を洗って返すついでに自分の服を取りに行き、服を貸してもらったことなど諸々のお礼を伝えてこの件は一件落着した。
その後数日間は再び大神の仕事を手伝い。
(自分がイタズラでバラバラにした書類の全てを整理し直させられた)
入学式の準備も手伝わされ。
たった数日の休暇を持て余し。
在学生オリエンテーションを迎え。
1日だけ....楽しい日を過ごし。
高等部の新しい制服が届き。
教科書が届き。
そしてついに高校生初日を迎えた。
大神への心の揺れ動きを押し殺したまま。
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