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式典 02
『忘れ物だよ』
「....あっ.....」
部屋を飛び出す間際。
忘れ物だとブレザーの内ポケットに何か突っ込まれたことを思い出す。
内ポケットに手を入れるとカサッとそれが手に触れる。
引っ張り出してみると、
『新入生代表挨拶』と題された式辞用紙が出てきた。
「やっと思い出したんだ」
「余計なことまで思い出す羽目になったけどな」
「それはそれは。因みに何思い出してたの?」
「だからそれは...朝、お前が俺に.......って
何言わそうとしてんだよ、ばか!!」
「あはっ、バレちゃった。作戦失敗」
言わされそうになった事に気づき、横に座る男の肩を思い切り叩く。
顔を真っ赤にさせ怒る俺を見てケラケラ笑う大神。
行き場のない恥ずかしさが込み上げ、両手で顔を隠した。
「....あーあ、
そんな可愛い反応されると襲いたくなるなぁ.....」
「.....は?....今何て....」
「別にー。それ、始まるまでに目通しておけよ」
「え、ぁ....ん、分かった」
ぼそっと呟かれた言葉は周囲の雑音に掻き消されてあまりよく聞こえなくて。
襲う、なんて物騒な単語が聞こえたような気がしたけどはぐらかされた。
式辞に目を通しながらチラリと大神を盗み見る。
大神も俺と同様、自分の式辞に目を通していて。
その真剣な眼差しになぜか心の奥が疼く。
普段自分をからかって遊んでる様子からは想像できない姿に、こんな顔もするのかと少し驚く。
初めて見る大神の真剣な表情。
緊張とは違ったドキドキが身体中を支配する。
「.......」
「....なに?そんな熱の篭った目で見つめられると恥ずかしいんだけど」
「へぁっ、....ぃ、いやっ、そんな目で見てないし....!」
真剣な様子に魅入ってたら、
思ったよりじっと見つめてしまってたようだ。
指摘にビクッと肩が跳ね、慌てて視線を紙に戻す。
なに.....やってんだ俺は。
自分の心臓の音がやけにうるさく感じた。
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