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式典 06

「....続きまして、新入生の言葉。新入生代表 高等部一年主席、天宮煌」 「.....はい」 式は滞りなく進んでいき、ついに俺の番がやってくる。 名前が呼ばれ、段取り通り礼をして壇上へ上がる。 俺の名前が呼ばれると予想通り講堂内は騒めきで満ちて。 ざわざわざわざわ、とうるさくなる。 大方、俺がここに居ることに対しての驚きの声だろう。 「静粛に!」 校長と思わしき人物の一言でざわめきは収まり始める。 演説台でライトを浴びながら全体を見渡す。 驚きに満ちた顔。 期待に満ちた顔。 不満そうな顔。 頬を赤く染めた顔。(主に女子) 怪訝そうな顔。 俺から見えるほんの少しの範囲でも、沢山の表情が見える。 こんな大勢の前で話すのは初等部の式典以来初めてで。 緊張の波が一気に押し寄せ心臓を圧迫する。 ギュッと目を瞑り、深呼吸。 「ぁ....」 目を開くと。 彼と目が合った。 『 が ん ば れ 』 たった4文字の口パクメッセージ。 やんわり細めらる瞳。 そして向けられるふわっとした笑顔。 なぜか胸がキュッとなって。 なぜか逆に上がる心拍数。 ((....あんの、ばか....っ)) 全然落ち着かないんだけど!! 恨めしい思いで大神を睨みつけ、もう一度深呼吸。 そして用意されたものを読んでいく。 ....... ..... ... 「....新入生代表、高等部一年主席、天宮煌」 ぶっつけ本番だったわりに間違えず読み切り、 拍手をBGMに一礼して壇上から降りる。 席に座り、ようやく終わったとホッと一息つく。 「お疲れ様。ちゃんと間違えず読めてたじゃん」 「おーさんきゅ....て、バカにしてんのか」 労いの言葉を掛けられたかと思えば、次の瞬間には「フリガナなくても大丈夫だったね」とからかわれる。 「お前こそフリガナ振ってなくて大丈夫か?会長サマ」 「ふっ、....生徒会長ナメんな」 「続きまして、生徒会からの挨拶です。 生徒会会長、大神優斗」 「はい」 完璧な挨拶見せてやるよ、と眩しい笑顔とともに壇上に向かう大神。 くっそ、無駄にキラキラしやがって.....腹立つな。 壇上で話す大神を見ながら、 その眩しい姿にドキドキすると同時にイラッとする。 周囲からも称賛の声やあの人かっこよくない!?と興奮する声が聞こえてくる。 自分とは違い褒め称えられる声が大きい大神に対して ちくっと胸が小さく痛んだ。 なんで.... こいつ相手にこうも気持ちが激しく変化するのだろう。 大神が式辞を読み進める中、 理由の分からないモヤモヤに再び俺は悩まされていた。

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