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揺さぶり 04

「幼馴染に本気でキスするわけないじゃん。冗談だよ」といつもの調子で言って笑う湊。 たとえ冗談でも、心臓に悪いから止めてくれ。 そう言いたくてジトっと湊を軽く睨む。 ただでさえ”大神”とか”会長”とか”キス”とかいう言葉に敏感になってるのに。 余計なことしないでくれよ。 「...なに?実はして欲しかった?」 「しね、クズ」 「ひどいなぁー....幼馴染なのに冷たいよ....」 「知るかよ」 幼馴染とキスなんて、死んでもあり得ない。 そう思いながらも少しドキドキしてしまった自分と湊本人どっちらもに向けて悪態を吐いておく。 いや、顔が良いあいつが悪い。 邪念を頭から押し退けたくて昼飯を口に押し込んだ。 なんかリスみたい、と頬をつつきながら笑う湊に誰のせいだと思ってんだ、と思いながら睨んで食物を胃へと送る。 何度もつつこうとする指を払い除け、引っ込められ、またつつこうとされ、指を払う。 「…ぷっ」 「ふはっ」 そんな特に意味の無いやり取りをしばらく続け、意味のわからなさに揃って吹き出し、声を上げて笑う。 こんな意味もないことで笑いあえるってやっぱいいよな。 ケラケラと笑い転げながら、溢れる涙を指で拭う。 「あーあ、笑った笑った。ほんと意味わかんねーや」 「だね。それでも乗ってくれるところ、結構好きだよ」 「そ?ありがと。俺もお前のこと好きだぜ、湊」 「....ありがと」 「?」 一瞬目を見開き、へらっと笑う湊。 一瞬。 ほんの一瞬だったけど驚いた顔をした友人。 なんか俺変なとこ言ったっけ?なんて首をかしげる。 思い当たる節は特にない。 もしかしたら....見間違い? 「さっきのは....」 「ん?どうかした?」 「.....いや....なんでも.....」 「そう?」 やはり気のせいだったのだろうか。 目の前の友人は何も無かったように笑顔を向けている。 そして、屋上きもちー!なんて言いながらゴロンと寝転がっている。 鍵持ってるって最高だな。 そう言って笑う友人に そうだね、なんて適当な相槌を返す他なかった。

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