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【香】第28話

成は焼肉の帰りにうとうとしながら、運転する里弓の横顔を眺めた。 こうして黙っていると、確かにカッコいいとは思う。色々な女性に言い寄られている姿を、昔から飽きるほど見てきたが、見目が良いことを認識したのは最近だ。 性格はちょっと苛めっ子だけど、それを差し引いても魅力的な男なのだろう。 ―――どんな人を好きになるのかな。 「ね、里弓兄のタイプってどんな人?」 「は?急に何だ。」 「ちょっと気になったから。」 「一ミリも気にするな。下らねえ事、言ってないで眠いなら寝ろ。」 里弓に鼻で笑われ、質問に答えはもらえなかった。まあ、元から教えてくれるとは思わなかったのだが。 里弓が恋人を連れてきた事はない。 以前は、どんな相手と付き合っているのか、それはそれは興味津々だったが、今は想像しただけで吐きそうになる。 ―――僕のものなのに。 里弓は成の『雄』なのに。 そんな事を思ってしまい嫌になる。 成のものではない。ちゃんと分かっているのに、里弓が誰かのものになるかもしれない事実を受け入れられない。 あの日、里弓に抱かれてから、成は心までおかしくなってしまった。 オメガの体だけでも厄介なのに。 成は現実から逃げるように瞳を閉じ―――、気が付けば、車は停まっていた。窓から見える景色によると、河埜家のガレージらしい。 成がまだ寝起きでフワフワしながら運転席の方を向くと、里弓も腕を組み目を閉じていた。 「里弓兄?」 しっかり寝ているようで、里弓は微動だにしない。 成が起きるのを待っている内に、里弓も寝てしまったのだろうか。 ―――叩き起こせばよかったのに。 胸の辺りがぎゅうっと切なく軋む。里弓から与えられる無条件の優しさが、いつも泣きたいほどに嬉しい。 でも、今はもう。 それだけでは―――従弟として大切にされるだけでは足りず、少しだけ悲しかった。 もう昔には戻れないのだと。

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