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【車】第31話
三回の面談を経て、柳小路成は中学を転校せずに済むことになった。問題が起きた場合、自主的に転校する旨を書面で約束させられたりはしたが、在籍を許されホッとする。
厳重に隠されているだけで、オメガ性の生徒もいない訳ではないという。
もちろん教えてはもらえなかったが。
「遅くなったな~。」
古山俊輔(ふるやましゅんすけ)が隣を歩きながら、腕時計で時間を確認する。
窓の外は既に暗い。
担任の古山と星陵中学の校長、そして保険医を交え、学校生活での注意点や決まり事などを延々と説明され、たった今解放された所だ。
「家まで送った方がいいか。」
「え、いいですよ。」
「良くない。さっきも十分注意するように言われただろ~。」
古山が呆れた顔で、成のこめかみを指で突く。
確かに、自衛をしっかりするように―――と、保険医から言われたばかりだった。
そう、オメガになって分かる。
世の中のオメガに対する厳しさが分かる。
例え、フェロモンが出ていない平常時に襲われたとしても、誰も庇ってくれないのだ。夜にひとりで出歩いたオメガが悪いと言われるだけ。
「え~と。じゃあ、迎え頼んでみます。」
「バカを言うな。神―――いや、河埜九段にお手を煩わせるような真似、できるわけないだろ。」
いつものダルっとした雰囲気を激変させて、古山が生真面目な顔で言う。
面談の内の一回が、保護者込みだった。
そこで分かったのだが、どうやら古山はかなりの将棋好きらしい。しかし、『神』と呼ぶのは如何なものか。
「伯父は仕事なので、従兄に。」
「プリンス!」
従兄の河埜里弓(かわのりく)の名を出すと、古山が瞳を輝かせて、勢いよく成を振り向く。
伯父が『神』で、息子の里弓の事は『プリンス』と呼んでいるらしい。ドン引きだ。
「連絡します。」
成はスマホを取り出して、里弓へメッセージを入れた。横でソワソワと髪の毛を弄る古山の様子に、頬がひきつる。
「先生、キモいです。」
「うっさいわ。テンション上がるだろうが。あの河埜里弓七段だぞ。」
古山がふんふんと鼻息を荒くして言う。
何だか、伯父と会った時より嬉しそうな気がするのだが。
成がうろんな顔をすると、古山が気を取り直すように咳払いをして、止まりかけていた足を速めた。
「柳小路、迎えが無理だったら送るからな。どっちにしろ、時間かかるだろ。とりあえず職員室で待っとけ~。」
「はぁい。」
ガラッ―――と、古山が職員室のドアを開ける。
中には、結構な数の教師がまだ残っていた。意外と多い。成が何処で待とうかと室内を見回していると、古山が徐に振り返った。
「ところで、柳小路。」
やけに真剣な眼差しを古山に向けられ、首を傾げる。
「サイン―――、いや、せめて握手だけでも無理だろうか?」
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