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【角】第39話
メープルとチョコレートみたいな香りがする。成の好きな匂いだ。
どうやら目の前の首筋から香ってきているようで、鼻をつけてクンッと嗅いでみた。
―――美味しそう。
そのままペロリと舐めてみる。
甘い。
正に、キャラメルだ。映画館のチョコレートキャラメルポップコーンの味がする。
「うっ―――、成!こら、舐めたな!」
里弓が引き剥がそうとするので、成は必死で甘い首にしがみついた。
「僕の、キャラメルポップコーン。」
「アホ、か~!食べもんじゃねぇ!離れろ!」
「い~や~。」
動けば動くほどに、里弓の魅惑的な香りが濃くなる。成はクラクラしながら、猫のように目の前の首を舐め続けた。
「やめろ!ここ何処だと、思って。」
「首。」
「そういう意味じゃねぇよ!くそがっ、さっさと車に乗れ!」
「きゃっ!」
車の中に放り投げられ、シートに顔が激突した。
頬が痛い。
打ち付けた右の頬を押さえながら、体を動かそうとしたが、やはり足腰に力は入らない。軟体生物にでもなった気分だ。
「はぁ、手間かけさせやがって。ポップコーンって、いったい何なんだよ。」
里弓がグチグチ言いながら、運転席に乗り込む。エンジンをかけると、すぐに車は発進した。
―――燃えてるみたい。
ニ度目の発情期は、ひどい熱さを感じた。
手足どころか、髪の毛すらも発火している気がする。前回もきっと同じように熱かった筈だが、意識が飛んでいてあまり覚えていない。
毎回、こんな熱に晒されなければならないのかと思うと、より恐怖だった。
「里弓にぃ、熱いよ。体。」
はっ、はっ―――という、自分の荒い呼吸が耳に障る。あまりの熱さに服を脱ごうとシャツを捲ると、里弓の手に止められた。
「まだ我慢しろ。」
「むり、できない。里弓にぃ、おねがい。」
「ここじゃ、ダメだ。」
もう一秒も耐えられる気がしない。
成は聞き分けの悪い子供のようにイヤイヤと首を振って叫んだ。
「何で、どこでもいいから。早く、僕に入れてよ。入れて、中に―――っ、」
口を大きな手のひらで塞がれて、一瞬だけハッとなる。とんでもない事を口走ったような気もするが、すぐに頭がぼんやりしてしまう。
ただ、里弓の顔を見て、怒らせた事だけは分かった。
「もう黙れ。家に着いたら、好きなだけ抱いてやる。」
信号が青になると里弓は手を離し、そう吐き捨てた。
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