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【角】第44話

二度寝をして、起きたら既に昼過ぎだった。隣には誰もいない。 まだ寝足りない気もしたが、観念して、成は心地よいベッドから起き上がった。寝室のドアを開けると、空腹を刺激する匂いがしてきて、成のお腹がぐぅと鳴る。我ながら、正直な胃袋だ。 成のお腹の音に気付いてか、キッチンに立っていた里弓が顔を上げる。 「起きたか。」 「おはよう、里弓兄。」 「パスタ、食えるか?」 きれいに盛られたトマトソースのパスタを成へ見せながら、里弓がテーブルへ運ぶ。 そのテーブルの上には、既にサラダも用意されており、成は驚いた。 ―――里弓兄の手料理とか。 慣れた手付きの里弓に、どうやら普段から自炊をしているらしいと悟る。 河埜家にいる時は、伯父と成に任せっきりだったから、お湯を沸かすくらいしかしていないのではないかと思っていた。 珍しい里弓を目で追っていると、急にこちらへ目を向ける。 「終わったみたいだな。」 「あ―――、うん。大丈夫みたい。」 一瞬、何の事か分からずにキョトンとしたが、すぐにヒートの話だと分かり、成は頷いた。 未だ名残のような熱が体内に燻りはしているが、燃え上がるような激しさは治まっている。数時間もすれば、このまま鎮火するだろう。 ―――たぶん早いんだよね。 通常は一週間から十日続くものらしいが、前回のヒートも成は一日で終わっている。 アルファを受け入れた為に短時間で済んでいるのだろうが、こんなに早いものなのか。まだオメガとして目覚めたばかりだから、体が安定していないだけなのか。 確かな理由は分からないが、次回もまた早いとは限らない。あれを一週間以上も一人で耐えねばならないと思うとゾッとした。 「ほら、座れ。腹へった。」 「すごいね。里弓兄のはじめての手料理。伯父さんが悔しがりそう。」 「やめろ。親父に言うな。押しかけてきそうだ。」 成が促されて手前の椅子を引くと、向かいに里弓が座った。目の前のテーブルをよく見れば、常備菜まである。セロリのピクルスだ。 驚愕だ。 これは本当に従兄の里弓かと疑いたくなる。 驚きすぎてコメントできぬまま、いただきます―――と、二人で手を合わせた。 里弓が作ったトマトソースのパスタを一口頬張る。 驚愕だ。 かなり美味しい。 目の前にいるのは里弓ではなく、恐らく宇宙人に違いない。

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