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【行】第45話

急に腕を引っ張られ、柳小路成(やなぎこうじなる)はすれ違う人にぶつかりそうになった。 文句を言おうと隣を振り向くと、永岡竜馬(ながおかりょうま)が子供のように目を輝かせており、その無邪気さに毒気を抜かれる。 「柳、たい焼き、たい焼き。」 「まだ買うの?」 成は呆れつつも、『たい焼き』と掛かれた看板の店舗へ足を向けた。前を歩く永岡の手には、既に抱えきれないほどの食べ物がある。 いったいどれだけ買うつもりなのか。見てるだけで胸焼けがしてくる。 成と永岡が何をしているかというと、今日は星稜(せいりょう)中等部の文化祭だ。 文化祭は二日間あり、昨日の金曜日が学内生徒だけで、本日土曜日は一般公開になっている。校内は他校の生徒や小学生、生徒の保護者たちが溢れ、いつもと違う雰囲気だった。 食べ物に興味を惹かれたのか、突然やってきた永岡を案内している所で―――。 永岡がどっしりと重そうな紙袋を受け取っているのを見て、成はギョッとした。 「え、それ何個買ったの?」 「普通の餡、白餡、クリーム、チョコ、全種類を各々二つ、計八個。」 「二つずつって―――、まさか僕の分じゃないよね。」 ひくりと頬をひきつらせた成へ、永岡が真顔で頷く。 「柳のだ。残さず食えよ。」 「無理だよ!」 「知ってる。」 悲鳴を上げた成を見て、ケラケラ―――と、永岡が楽しそうに笑う。げんなりとなる。 永岡の頭の中の七割くらいは食べ物ではないだろうかと思う。 「なぁ、柳―――」 「すみません。ちょっといいですか?」 永岡が何かを言いかけたが、少し幼い声に会話を遮られた。微妙に掠れている。 その声の方へ振り返り見れば、男子がひとり立っていた。 聡明そうな黒い瞳に居抜かれる。 「えっと、俺?」 「いえ、そっちの人に、」 永岡が自身を指差して聞くと、年下の男子が成を指差す。一方、指名された成は、驚愕に目を見開いたまま硬直していた。 ―――この子は、 顔立ちに見覚えがある。 四歳までの彼しか知らないのに、一目で気付いてしまった。 彼は足を踏み出し、固まる成の前へ一歩近づいてくる。 逃げ出したい。 「柳小路成さんですよね?俺、コウです。柳小路功(やなぎこうじこう)。」 弟だ。 やはり弟だった。 四つ下の出来の良いアルファの弟。 彼が、何故ここへ。

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