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【行】第49話

功が石垣に腰掛けて、立ったままの成を見上げる。こうして見ると、目元が自分と少し似ている気がした。 「で、兄さん、どうするわけ?」 「何を?」 アルファとオメガで体つきは全然違うけれど、血の繋がった兄弟なのだ。 そんな事をぼんやり考えていて、功の発した言葉の意味が掴めず、成は首を傾げた。 「こうなったわけだし。兄さん、棋士になるの止めるんだろ?」 「いや、それは、」 成が狼狽えながら言葉を濁すと、功が眉間にシワを寄せる。 「は?どう考えても、棋士なんか無理だろ。オメガなんだから。」 「―――無理、ではないよ。」 嘘ではない。 現に江崎はオメガだ。この性であってもプロになれない訳ではないのだろうとは思う。 プロになって、プロであり続ける。オメガにとって、恐らくとてつもなく難しい。 あの飄々とした江崎の陰にどれほどの努力があるのか、成には想像がつかない。 「ふぅん。じゃあ、兄さんはその体でプロになる覚悟があるんだ?」 「覚悟、は、」 プロ棋士になる―――と、自信を持って肯定できず、成は両手を握りしめた。 手の中の紙がクシャッと音を立てる。 「ほら、全然、無さそうだし。もし棋士になれないなら、河埜さん家に居れないだろ。だったら、どうするの?」 どうするのかと問われても、河埜家に居られなくなれば、どこにも成の居場所はなくなる。もしかすると、生きる意味さえ見失うかもしれない。 成の不安を読み取ると、功が意味ありげにニヤッと笑う。 「いい事、教えてあげようか?」 とても『いい事』を言いそうな雰囲気ではない。意地悪そうに笑う功に、成は半歩後ろに下がった。 「母さんさ、最近、アルファ探し始めたよ。」 「え―――?」 「それも、随分と金持ちのアルファばかり。兄さんと見合いでもさせる気なんじゃないかな?」 想像もしていなかった事を言われて、固まる。 ―――アルファとお見合い? 結婚―――という言葉が頭に浮かび、ザザッと血の気が引いた。 「まさか、そんな。」 「さぁ?」 功はそれ以上詳しい話はせず、青ざめる成を残し去っていった。

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