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【馬】第56話

文化祭が終われば、中学三年の受験生にはテストが待ち構えていた。今回は全国の中学校で一斉に行われるもので、志望校への判定が出るテストだ。 特に塾へ行っていない成にとっては、自分の実力が計れる大切な機会なのだが、不穏な気配が漂ってきている。 「柳小路、ちょっと来い。」 古山俊輔(ふるやましゅんすけ)に手招きされて、成は頬をひきつらせながら立ち上がった。 まさか、呼び出しされるほど酷いのかと、ビクビクする。 「何でしょうか?」 古山は成の肩を掴むと、無言で廊下へと連れ出した。そのまま止まらず、肩を組んだ状態で廊下をズンズン進む。 「あの、先生?」 「ええと、あそこでいいか。」 何処まで行くのかと思ったが、渡り廊下手前でピタリと足を止めた。肩は組んだまま、内緒話のように古山が顔を寄せてくる。 古山のドアップに思わず、顎を引く。 「あのな、春日って、親戚か何かか?」 「春日?」 「知らないか?春日不動産とか。」 「知りませんけど―――あ、いえ、春日不動産って名前は知ってますよ。ほら、CMで。」 成の住む地域にだけ流れるローカルなCMだ。大したインパクトもなく、淡々とした映像だけのCMだったが、何となく覚えていた。 「それだけで、親戚ではないです。」 「う~ん。」 「いったい何ですか?」 「詳しくは分からんがな―――」 古山が珍しく言い淀み、一呼吸開ける。 「校長から、柳小路の個人資料を持ってくるように言われてな。個人情報を漏らすのはどうかと思って尋ねたんだが、春日の会長がどうとか、何だかハッキリしない。親御さんの許可は得てるし、親類だから大丈夫だとか、」 親―――という単語に、成はサッと青ざめた。 親と春日の会長がどんな関係か分からないが、どうにも嫌な予感しかしない。 ―――まさか。 功が言っていた話が頭を過る。本気で成を見合させる気なのか。 「おい、大丈夫か?」 あまり大丈夫ではない。

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