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【馬】第57話

柳小路功(やなぎこうじこう)には、四つ上に兄がいる。名前を成(なる)という。 兄と弟の漢字を合わせて、『成功』。 兄弟で力を合わせて、柳小路の家をもり立てていく様に―――と、祖父に名付けられた。 柳小路の家の為に人生を捧げろ。 そういう意味にしか、功には聞こえない。 ―――誰が、言いなりになるものか。 早く大人になりたいと、そればかり考えて毎日を生きている。 兄である筈の成はというと、八歳の時から家を出たまま一度も帰らず、将棋棋士の伯父の元でプロ棋士を目指しているらしい。 早々にこの家に見切りをつけて、好き勝手して生きている訳だ。 許せる筈はない。 「で、久しぶりに会ったお兄ちゃんはどうだった?」 星稜中学の文化祭に行った事を話すと、家庭教師の垣本真哉(かきもとまさや)が面白がって聞いてくる。 「やっぱりオメガだね。顔は女みたいで、体は小さくて、性格も気弱そうな感じ。近くにいたらイラつくタイプだよ。」 「ふぅん、一緒に住んでなくて良かったな。」 同調する訳でもなく、嗜めるでもない垣本の返答に笑ってしまう。絶妙な距離感だ。 「まぁね。もし帰ってきたとしても、またどっか行く事になるだろうし。」 「ああ、お見合いだっけ?」 察し良く垣本が頷く。 毎週のように功が愚痴を吐くもので、垣本にはすっかり河埜家の事情を知られてしまっている。 お見合い―――の言葉で、垣本へ尋ねたい事があったのを思い出した。 「あっ、そうだ。聞きたい事かあったんだ。」 「何?」 「先生の大学のOBで、春日結仁(かすがゆいと)って知らない?」 「春日不動産の人間だろ。大学では有名だな。」 垣本が怪訝そうに首を傾げる。対して、功はというと、一気にテンションが上がった。 「その人、どういう人?」 「どういうって。金持ちで顔が良くて、優秀なアルファ。爽やかで、女にモテる。下半身は緩くて、ヤり捨てし放題とか―――そういう噂。」 「へぇ。」 「何だよ。春日結仁がどうしたか?」  個人名が出てきて、いつも無関心の垣本も多少は気になるらしい。珍しく食い付いつかれ、功は上機嫌で微笑んだ。 「兄さんの見合い相手だよ。」

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