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【ト】第61話

懐かしい伯母の夢を見た。 今の成の状況を心配して、天国から伯母が来てくれた気がする。 夢見は良かったが、現実は最悪だ。 翌朝、成は母と共にヒルレイズホテルへ向かっていた。今から、見知らぬ人と見合いをせねばならない。 しかも、だ。 これは正装といえるのか。成は性別不詳な西洋のお人形みたいな服を着せられていた。小学生ならまだ分かるが、中学三年の男が着る服ではない。特に、首元の深紅の細いリボンが嫌過ぎる。 ―――取りたい。 気になるもので、落ち着きなく触ってしまい、その度に少しずつ緩む。何度も結び直していると、母から尖った声が飛んできた。 「成、いい加減になさい。」 ビクリとなる。 そんな自分の反応の情けなさに気付いて、落ち込む。 母と離れていた期間に少しは克服したか、もしくは反発などの感情が湧くのではないかと思っていたが、時間を巻き戻したかのように萎縮してしまっている。 成が取り繕うように姿勢を正すと、母が満足そうな顔になった。 「それで良いわ。あなた、顔は良いのだから、オドオドせず落ち着いていれば気に入られる筈よ。」 「お母さん、僕はお見合いなんて、」 「心配しなくても、お見合いしたからって、すぐに結婚する訳じゃないって言ったでしょう。」 「そういう心配じゃなくて、」 全く話が噛み合わなくて、途方に暮れる。 気に入られるも何も、お見合いをしたくないのだと何度告げても、母には何故か通じない。成が嫌がるなど思いもしない様子だ。 「もう、あなたはさっきからグズグズと。不安ばかり言ってないで、とにかく、会ってみてからでしょう。」 不安ではなく、不満なのだが。 訴えても理解してもらえるとは思えず、成は口を閉じた。 ―――会ってみてから、ね。 オメガである成の方から断るのは、恐らく有り得ない話だろう。 ならば、お見合い相手のアルファ側から断ってもらえばいい。話の分かりそうな方ならいいし、そうでなくても、 ―――嫌われればいいんだ。 こんなオメガは勘弁だと思われる振る舞いをしよう。お見合いへの方針が決まり、成はやっと腹をくくった。

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