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【ト】第62話

場所はホテルのレストランの個室。二十八階から見下ろす景色は見慣れない街で、少し心細い。 先に到着した成たちが五分と待たずに、見合い相手の春日結仁(かすがゆいと)はやって来た。 「遅くなりまして。」 約束の十五分前だから早いくらいだ。 成は母に遅れて、ゆっくりと椅子から立ち上がった。わざとだ。 春日は母の次に成へ顔を向けると、サッと頭から爪先まで視線を走らせてきた。恐らく、値踏みされたのだろう。 しかし、それは瞬きするほどの事で、次の瞬間には春日の顔にはにこやかな笑みが浮かんでいた。 「春日結仁と申します。本日がよきご縁になれば嬉しく思います。短い時間ですが、どうぞよろしくお願い致します。」 春日が爽やかに挨拶する。印象は良い。 先ほど、値踏みされたように感じたのは、勘違いだったかもしれない。 母に肘をつつかれて、成も頭を下げた。 「柳小路成と申します。よろしくお願い致します。」 ランチのコース料理を食べながら、ゆっくりとお見合いは進む。会話の主役は母と春日で、成は質問された時にだけ言葉少なに答えた。にこりともせずに。 愛想のない成に、隣の母が顔をしかめていたが、気付いていないフリをし続けた。 「成くんは、料理が得意なんですか?私はそういった事には不器用で、普段は外食ばかりですよ。まだ中学生なのにスゴいな。料理が好きかい?」 「いえ、別に。」 「偉いね。得意料理は何かあるのかな?」 「得意、という程のものは。」 「成くんは謙虚だね。包丁も使えない私からすると、尊敬する程なんだけどな。じゃあ、いつもどんな物をよく作る?」 「―――和食ですかね。」 成は皿の上の魚を突きながら、ボソボソと答えた。終始こんな調子なのだから、無愛想な子だと思われている筈だ。 ―――なのに、 春日は気分を害した様子もなく、爽やかな笑みを浮かべている。どうにも手応えがない。 イイ人なのだろうかとも思うが、上部だけで会話しているようにも見える。あまり内面が見透かせない人だ。 春日の性格を掴めないまま時間は流れ、料理はデザートに突入した。

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