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【ト】第63話

デザートを慌ただしく食べ終えると、急に母が退席した。成と春日は個室に残され、後は若いお二人で―――という事だろう。 ずっと様子をみていたが、結局は春日の胸の内が全く分からなかったので、成は単刀直入に聞いてみる事にした。 「あの、こんな事を尋ねるのは失礼かもしれませんが、春日さんは今回の、僕とのお見合いに対して、どうお考えですか?」 先ほどとはうって変わってハキハキと話始めた成に、春日は少し目を見張った。 「僕は話があまりに急すぎて、頭が追い付いていません。結婚も早すぎますし。春日さんはどうなのだろうかと思いまして。」 成がじっと見つめると、察したらしく春日が面白そうに笑う。 「そうだろうね。君はまだ中学生だし。正直に話すと、俺も今、結婚をする気はないかな。まだ二十四、社会に出たばかりだから、結婚は早いだろうと思っている。」 ほぅ―――と、安堵の息が成の口から零れた。 「良かった。それならこの話は、」 「でも、このお見合いを断る気もない。」 「え―――」 「だから、しばらくは婚約という形で、―――例えば成くんが高校を卒業するまで待ってから、結婚とかになるだろうね。」 ホッとしたのも束の間、春日から具体的な未来予想をされて、成は一気に青ざめた。 「そんな、」 「ん~、さっきまではどう断ろうか考えてたよ。俺の親は乗り気で、説得には面倒そうだなって。でも、今は―――」 意味深に一呼吸置いて、春日が続ける。 「今は、成くんに興味がある。」 いや、興味がある―――とは、どういう意味だ。 恋愛的な意味合いでとはどうも思えないが、何やら余計な興味を惹いてしまったのか。 「俺は、オメガが好きではない。しかし、俺の家では―――、ほとんどの家がそうである様に、アルファは必ずオメガと番って、アルファの子供を作らなければならない。これは逃げようがない。嫌だからって拒否はできない。許されない。」 春日の話す事は、成にも分かる。柳小路の家も似たような考え方だ。 オメガなら、アルファの子供を絶対に産まねばならない。 「幸いな事に、成くんはあまりオメガらしくない。容姿はオメガらしいけど、頭が良くて、気は強い。自立心も強そうだ。」 ―――え、待って。じゃあ、 春日の話によると、さっきまでは、お見合いを断るつもりだったらしいが、成がオメガらしくないと分かり考えを変えたらしい。 逆効果だったのだ。 成はショックで呆然となっている。 「実際に結婚するかどうかは置いといて、良い返事をするつもり。後はそっち次第だよ。まあ、君のお母さんは断らないだろうけど。」 そう言って、春日が爽やかに笑った。

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