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【成】第64話
甥っ子が実家へ連れ戻され、強制的にお見合いをさせられた頃。伯父、河埜新士(かわのしんじ)はタイトル戦の為に、福岡にいた。
このタイトルの去年の王者は新士だ。
勝ち上がってきた相手と指す事になるので、まだ緊張感はない。誰が上がってくるにしても、新士よりは若いだろう。
―――何せ、
「五十二だもんな。」
「新ちゃん、五十二か。早いな。」
七つ上の従兄の剛(つよし)が目尻にたくさんの皺を寄せて笑った。
新士が五十二なら、剛は五十九だ。
お互いジジイになったな―――と、思う。
今いる場所は、福岡市内から車を走らせて一時間ほどにある剛の家だ。新士のタイトル戦に合わせて、近くの親戚が集まっていた。
だからといって、新士の為の会ではない。最初の頃はそうであったような気もするが、今ではただの親戚の集いと化している。
親戚一同、皆スポーツ系の人種ばかりだから、将棋などに興味がないのだ。
「そういや、いつだったか。最近、りっくん、ニュースか何かで見かけたな。」
ジャガイモに明太子マヨネーズをモリモリと乗せながら、剛が言う。主役のジャガイモを上回る明太子マヨネーズの多さにギョッとする。
ちなみに、りっくん―――とは、息子の里弓(りく)の事だ。ニュースで見たと言うならば、昇段した時だろう。
「今、何段だっけな?」
「里弓か?八段。」
「八段か。凄いなぁ。新ちゃんは何段だ?十二段くらいか?」
「そんな段位ないわ。俺は九段。おい、いらんぞ。」
剛がモリモリ明太マヨジャガを二つ作ると、一つを新士の前に置いたのだ。
「旨ぇから食っとけ。なら、新ちゃん、もう追い付かれるんじゃねぇか。」
「本人にやる気があれば、とうの昔に追い付かれてただろうがな。絶対、旨くねぇだろ。明太マヨ、乗せすぎだ。」
「騙されたと思って、食ってみ。」
剛が上機嫌で明太マヨジャガにかぶりついた。見てるだけで、塩っからい気になり唾液が湧く。
「ああ、そうだ。」
新士は凶器の料理から逃げるようにスマホを取り出して、通知を確認した。
―――おかしい。
今朝、甥っ子の成(なる)へ電話をしたのだが、折り返しがない。頻繁にやり取りをする訳ではないが、連絡すればその日の内にはいつもリアクションがある。
何かあったのではないだろうか―――と、途端に落ち着かなくなる。
しかし、明後日にタイトル戦があるから、帰る事もできない。
里弓へ電話をしてみるも、電源すら落ちているようで、無機質なアナウンスに切り替わった。
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