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【成】第66話

伯父が福岡で右往左往し、従兄が仙台で悟りを開きかけている時。 柳小路成(やなぎこうじなる)は北海道行きの飛行機の中にいた。三日前のお見合で初めて会った相手―――春日結仁(かすがゆいと)と、何故か一緒に旅行をしているのだ。 いったい何故、こんな事になったのか。思い返しても良く分からない。流されるように飛行機に乗ってしまい、ただただ混乱している。 「成くん、魚いける?」 「あ、はい。」 「魚が大丈夫だったら、今夜は寿司にしよう。前に北海道来た時、見つけた店が美味かったんだよ。」 春日がスマホを弄って、こちらへ見せる。覗くと、店らしき画像が表示されていた。もちろん回ってはいない。 「成くん、嫌いな魚は?」 「牡蠣(かき)以外は、大丈夫です。」 「了解。牡蠣がダメ、と。じゃあ、カニは好き?」 「好きです。」 「確か、カニの寿司があった。カニみそ醤油で食べるんだけどさ、これがまたイイんだよな。」 「カニみそ。」 ―――美味しそう。 春日の解説で、成の胃はすっかりカニモードになった。北海道に来たのだから、やはりカニは食べておきたい。 「予約入れとこう。当然、カニも。」 「はい、お願いします。」 ウキウキと返事をして、ハッとなる。 危うくカニの魅力に流される所だった。婚約者への昇格(?)を阻止せねばならないという目的があるのに、呑気に親睦を深めている場合ではない。 何か無いか。 例えば―――。 「以前、来られた時は彼女さんとですか?」 成の唐突な質問に、春日が目を見張る。 「いや、違う。彼女ではない。大学の時に男友達四人で―――。っていうか、成くんがそういう事、気にしてくれると思ってなかったから、驚いた。」 春日が嬉しそうに言う。 ウザいとか、面倒臭いとか、思って欲しくて尋ねたのだが、予想外の反応をされてしまった。過去を詮索されたりしても、あまり苦でないタイプなのか。 「そういえば、俺、彼女と旅行した事ない。今回が初めてだ。」 「え、本当ですか。」 意外すぎる。 春日のルックスならば数多の女性に言い寄られて来ただろうに、意外と遊んできてないのか。または、恋愛に対してドライなのかもしれない。 いや、どうだろう。さっきの嬉しげな反応はドライとも違う気もする。 どれが本心が推し量れない。 「成くん、楽しい旅行にしよう。」 春日が爽やかに笑った。好青年だ。真っ白いシャツが良く似合う。 ―――なのに、どうしてかな。 何処か胡散臭く感じてしまう。

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