66 / 101
【成】第66話
伯父が福岡で右往左往し、従兄が仙台で悟りを開きかけている時。
柳小路成(やなぎこうじなる)は北海道行きの飛行機の中にいた。三日前のお見合で初めて会った相手―――春日結仁(かすがゆいと)と、何故か一緒に旅行をしているのだ。
いったい何故、こんな事になったのか。思い返しても良く分からない。流されるように飛行機に乗ってしまい、ただただ混乱している。
「成くん、魚いける?」
「あ、はい。」
「魚が大丈夫だったら、今夜は寿司にしよう。前に北海道来た時、見つけた店が美味かったんだよ。」
春日がスマホを弄って、こちらへ見せる。覗くと、店らしき画像が表示されていた。もちろん回ってはいない。
「成くん、嫌いな魚は?」
「牡蠣(かき)以外は、大丈夫です。」
「了解。牡蠣がダメ、と。じゃあ、カニは好き?」
「好きです。」
「確か、カニの寿司があった。カニみそ醤油で食べるんだけどさ、これがまたイイんだよな。」
「カニみそ。」
―――美味しそう。
春日の解説で、成の胃はすっかりカニモードになった。北海道に来たのだから、やはりカニは食べておきたい。
「予約入れとこう。当然、カニも。」
「はい、お願いします。」
ウキウキと返事をして、ハッとなる。
危うくカニの魅力に流される所だった。婚約者への昇格(?)を阻止せねばならないという目的があるのに、呑気に親睦を深めている場合ではない。
何か無いか。
例えば―――。
「以前、来られた時は彼女さんとですか?」
成の唐突な質問に、春日が目を見張る。
「いや、違う。彼女ではない。大学の時に男友達四人で―――。っていうか、成くんがそういう事、気にしてくれると思ってなかったから、驚いた。」
春日が嬉しそうに言う。
ウザいとか、面倒臭いとか、思って欲しくて尋ねたのだが、予想外の反応をされてしまった。過去を詮索されたりしても、あまり苦でないタイプなのか。
「そういえば、俺、彼女と旅行した事ない。今回が初めてだ。」
「え、本当ですか。」
意外すぎる。
春日のルックスならば数多の女性に言い寄られて来ただろうに、意外と遊んできてないのか。または、恋愛に対してドライなのかもしれない。
いや、どうだろう。さっきの嬉しげな反応はドライとも違う気もする。
どれが本心が推し量れない。
「成くん、楽しい旅行にしよう。」
春日が爽やかに笑った。好青年だ。真っ白いシャツが良く似合う。
―――なのに、どうしてかな。
何処か胡散臭く感じてしまう。
ともだちにシェアしよう!