68 / 101

【成】第68話

北海道二日目も晴れていた。 成の眼前には、夏の花らしく力強く咲くヒマワリの海が広がっている。 これで五分咲きくらいらしいから、満開になったら大迫力だろう。個人的には、今くらいが好きかもしれない。 「地平線がヒマワリって、スゴいな。」 隣で、春日も感嘆の声を上げる。 「展望台があるらしい。折角だし、行こうか?」 「はい、行きたいです。」 「あっちかな。」 地図を見て歩く春日から、成は少し遅れて付いて行った。 ―――不思議だなぁ。 二人の間にあった僅かな緊張感は消えていた。友人のような親しみはまだないが、二人でいてもそう気詰まりではない。きっと春日が、他人との距離の取り方が上手いからだろう。 ―――だからといって、 春日と結婚したいかと問われれば、もちろんしたくはない。成の価値観からすると、恋愛感情もないのに結婚を考えるのは難しい。 でも、しばらくはこの曖昧な関係のまま母を誤魔化せるのではないかとも思っている。春日の協力があればより簡単だ。 婚約者という事にしておけば、将棋だって自由にできるかもしれない。 前を歩く春日の背中へ、思いきって声を掛けた。 「あの―――春日さんは、」 「何?」 「春日さんは、本気で僕と結婚するつもりなんですか?」 成の問いに、振り向いた春日が苦笑いする。 「言いにくい事をズバッと聞いてくる。」 「すみません。」 明け透けに話しすぎたかもしれない。 春日に好かれようとか少しも思っていないから、手間暇をかけてコミュニケーションを取ろうとせず、直接的な言葉が出てしまう。 「いや、謝る事じゃない。イエスかノーで答えやすい聞き方は好きだよ。質問の意図が分からないような話し方する人も多いから。」 春日が話ながら一度ヒマワリ畑を見渡し、成へ視線を戻す。真っ正面からの視線に気圧されそうになった。 「答えは、イエス。本気だ。」 「僕の事―――、好きじゃないですよね?」 まあね―――と、春日が先程と違った口調で軽く返す。 「そもそも、結婚に恋愛が必要だとも思わないけど、俺は成くんを気に入ってるよ。恋愛はしてないけどね、大事にしたいとは思う。別にそれでいいんじゃないかな。」 いいのか。 いや、いいとは思えないのだが。 青空の下、鮮やかなヒマワリをバックに堂々と立っている姿を前に、春日こそが正しいように思え、成は返す言葉を無くした。

ともだちにシェアしよう!