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【成】第69話
今日が伯父のタイトル戦の日だと思い出したのは、既に空が暗くなった頃だった。宿泊のホテルに戻り、ぼんやりと簡易の将棋セットを眺めていたら、はたと気付いたのだ。
「わわわ、どうしよう。忘れてた。」
焦りながらテレビをつけてみるが、バラエティやアニメなどしかあっていない。
調べようにも、スマホもパソコンも持っておらずネットができる環境にない。フロントで尋ねたら、もしかすると教えてもらえたり―――。
「あ、そうだ!春日さん。」
春日に頼んで、スマホかパソコンを貸してもらえばいい。成は自分の部屋を早足で出ると、隣室をノックした。五秒ほど間が空き、不思議そうな顔をして春日がドアを開けた。
「成くん、何かあった?」
「すみません。パソコン貸してもらえないかと思って。」
「いいよ。入って。」
春日は躊躇なく了承して、成を招き入れる。室内の配置は、成の部屋とは逆だった。
テーブルの上にパソコンが置いてあり、今まで触っていたようで開いている。
仕事をしていたのかもしれない。
「お仕事中でしたか?」
「大丈夫。使うのはネット?何か、調べる感じ?」
「はい、将棋の対局を。」
春日はパソコンを弄ると、開いていた何枚かのページを閉じ、ネットワークのアプリを立ちあげて、成へと場所を譲った。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。お邪魔してすみません。すぐ終わります。」
「いいって。好きなだけ使って。」
春日と交代して、成がパソコンの前に座った。検索スペースに『日本将棋連盟』と打ち込む。
「誰の?―――って、聞いても分からないか。俺、詳しくないからな。」
最近、将棋の人気が上がってきてるとはいえ、好きな人の方が稀だろう。春日が将棋に詳しかったら、その方が驚く。
「僕の伯父です。今日、対局があった筈で。」
「ああ、伯父さんか。河埜棋士。」
「そうです。知って、―――あ、え。」
将棋連盟のホームページを開くと、信じられない単語が目に飛び込んできた。
―――嘘。
画面を凝視して固まった成の後ろから、春日が覗き込む。
「どうかした?」
―――そんな、何で。
何かの間違いではないかと、他のページに飛んでみても、やはり『不戦敗』の三文字があった。
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