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【龍】第74話
ポイッと荷物のように落とされて、柳小路成はベッドの上に倒れた。ひんやりとしたシーツが、自分の体温ですぐに温くなる。
―――体が燃えそう。
熱くて堪らずシャツを捲ると、頭の上から里弓の呆れたような溜め息が降ってきた。
「何で、またヒートになってんだよ。」
「くすりをっ、―――誘発の、ぁっ、」
成は朦朧と答えながら、シャツを脱ぎ始めた。手が震えて思うように動かない。
見ているだけで何もしない里弓を恨めしく見上げる。そんな成に気付くと、里弓が億劫そうに寄ってきた。
「誘発剤、使われたのか。あいつ、ゲスだな。」
里弓が隣室の方に目をやりながら、嫌悪の表情を浮かべる。不機嫌なまま覆い被さってきた里弓の首へ、成は腕を回し引き寄せた。
互いの頬が触れて、はぁっ―――と、成の口から熱い息が零れる。
「というか、いったい誰なんだ?婚約者って、言ってたが。」
「んっ―――、見合いを、して、」
成のシャツを脱がしていた里弓の手がピタリと止まる。重なっていた体が急に引き剥がされた。
「は?見合いって、どういう事だ?」
「母さんが、見合いしろって。春日さん―――、アルファと番に、」
「叔母さんが?」
里弓が怪訝な顔で考え込む。焦れて里弓の服を掴むが、その手を邪険に払われた。ムッとなる。
「待てって。あの春日って奴と―――」
「里弓にぃっ、」
冷静に話そうとする里弓に腹を立てながら、成は思いきり顔を寄せた。しかし、唇が触れる直前で避けられる。再びムッとする。
「おい、話の途中だろうが。」
「里弓のばぁか!はなし、なんて、できない!」
子供のようにバタバタと暴れると、里弓に上から押さえ付けられた。もう限界で体が小刻みに震えるし、目からは熱い涙が流れる。
「分かったから、暴れるな。じゃあ、一つ、答えろ。」
「なに?」
「あいつに、惹かれたりしてないよな?」
奇妙に真面目な顔をして里弓が言う。何を問われたか分からずにポカンとなった。そんな事を聞かれるとは思わずぼんやりしてしまう。
―――春日さんに、惹かれて?
「ないよ。全然。」
戸惑いながら答えると、里弓が詰めていた息を吐き出した。
「そうか。ならいい。」
「里弓―――」
何かを問いかけなければいけない気がしたが、遮るように里弓から唇を塞がれた。疑問はスルスルと逃げていく。あっという間に霧散して、もう掴めなくなった。
ただただ、ゆっくり重なる柔らかい皮膚の感触に酔う。丁寧に触れられ、心がじんわりと満たされていく。
そして、ストンと納得した。
―――ああ、なんだ。僕は、
里弓が大切だ。
大事な従兄だ。家族だ。離れても、それに代わりはない。
でも、従兄や家族に対する気持ちだけじゃない。二度も体を重ねながら、全く気付いていなかった。春日に触れた時はあんなに嫌だったのに。
今さら。
里弓に触れられたら嬉しい。
愛されたら幸せに思う。
アルファだからじゃない。オメガだからじゃない。
―――好き。
里弓が好きなのだ。
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