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【龍】第77話
記憶はハッキリしていないが、今回のヒートは、普段より時間が短かった気がする。
もしかすると、薬で無理やり起こしたヒートだからかもしれない。
二度ほど欲望を注がれ、気を失うように眠りにつき―――、起きたのはもう昼に近い時間だった。
追い立てられるように飛行機へ乗せられ、座席に座ると必然的に目蓋は引っ付き、柳小路成(やなぎこうじなる)が再び目を開けた時には空港に降り立っていた。
「えっと、」
帰ってきたはいいが、何処へ行くべきか困ってしまう。隣の河埜里弓(かわのりく)は無言だ。
この態度を見る限り、柳小路の家には帰してもらえない気がする。河埜家に連れ帰るつもりかもしれないが、それは無理だ。成はもうあそこへ戻る訳にはいかない。
「親父がな。」
「あ―――、伯父さん。」
ヒート騒動のせいで、伯父の事がすっかり頭から飛んでいた。
「不戦敗だったよね?伯父さんに何かあったの?」
「倒れた。」
「―――た、」
ヒュッと喉が詰まる。
連鎖的に、伯母の顔が頭を過った。しかし、青ざめた成を見て、心配いらないというように里弓が首を振る。
「そう大した事はないらしい。入院はしてるが、念のためだ。」
「それじゃあ―――、伯父さん、福岡の病院にいるの?入院はいつまで?」
「二、三日。だから、早くて明日か。」
明日か明後日には退院できる。
里弓の言う事を疑ってた訳ではないが、本当に伯父は重い病気などではないらしい。ホッとする。
「伯父さん、迎えに行く?」
「いや、行かねぇ。手は足りてるからいらねぇって。」
確かに、福岡は伯父の故郷だから、親戚は多い。何度か親戚一同と会った事はあるから、仲の良さも知っている。
それでも、迎えに行きたい気持ちが強い。さすがの母も、倒れた伯父を迎えに行く事くらいは許してくれる―――かもしれない。
むむむ―――と、成が唸っていると、米神を突かれた。
「俺たちは、話つけに行くぞ。」
「へ?」
里弓の言葉に、成は米神を押さえながら、キョトンと首を傾げた。
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