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【龍】第78話

誰と話をするのか尋ねれば、成の親だ―――と、里弓が言う。 成が将棋を続けていける様に、再び河埜家に戻れる様に、してくれるつもりらしいが、とんでもない。里弓を母と対決させる真似は、絶対に避けねばならない。 今の状況に不満はないのだと納得してもらわなければ、恐らく里弓は止まらないだろう。 だから考えた末、プロを目指すのは止めた―――と、成は言ったのだ。 「あぁ、何だと?」 「いや、止めたっていうか。」 里弓から凶悪な顔で凄まれて、途端に逃げたくなる。しかし、狭い車内に逃げ場はない。里弓の車の中なのだ。 「江崎さんと話して、急いで棋士になる必要もないんだなと思ったんだよね。実際、まだオメガの体に慣れてないし、安定するのにはかなり時間がかかるみたいだし。」 これは、本当の事。 プロ棋士にならねばと焦るのは止めた。先ずは、オメガの体との上手い付き合い方を知る事が大事だと思う。 「ほら、里弓兄にも言われたでしょ。人に自分の夢を重ねるなって。将棋から少し離れてみようかと思う。」 中々、説得力がある気がする。 一般的に悩んだ時や迷った時には、一旦距離を置く方法が有効だろう。そんな成に無理やり将棋をさせようとは、きっと里弓ならしない。 「お見合い―――とかは、困るけど。家族で暮らせるのは嬉しい。」 ―――家族。 伯父と亡き伯母と、里弓が、成にとっては真に家族だ。河埜の家が恋しくて堪らない。 あそこへ帰りたい―――と、訴える心を聞き流し、成は笑みを浮かべて見せた。 完璧な微笑みをしている自信がある。 見抜かれる筈は―――。 「嘘だな。」 里弓が面白くない冗談を聞いたような顔をして言う。 「おまえ、アホなのか。」 「アホじゃ―――」 「アホだろ。それのどこが、嬉しそうな顔なんだよ。今にも死にそうな顔してるの分かってねぇのかよ。そんな顔させるような場所に返すワケねぇだろ。」 俺をバカにしてるのか―――と、里弓が忌々しげに吐き捨てる。 何故、嘘だと分かってしまうのか。 こんなに上手く嘘がつけたのに。 「さっき、将棋から離れるとか言ってたな。絶対、無理だろ。」 「なんで、」 「だって、おまえ。好きだろ。」 どうしようもねぇほど好きだろ、将棋―――と言う里弓の言葉が真っ直ぐに飛んできた。

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