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【王】第80話
翌日の昼過ぎ、柳小路の家には皆が勢揃いしていた。
成から見て、右側に父と母が、左側に伯父と里弓がいる。父を見たのは何年ぶりだろうか。
父さん、歳を取ったなぁ―――と、思う。
「ひさしぶり。」
「義兄(にい)さん、お加減はいかがです?九州でお倒れになったとか。」
「ああ。もうすっかり元気だ。」
父と伯父がにこやかに挨拶を交わす様を、成は現実味のないまま眺めた。
―――良かった。元気そう。
伯父は朝イチで九州の病院から退院し、午前中の内にこちらの空港へ降り立った。かなり無理をしたのではないかと思ったが、成が見る限りきちんと完治したらしい。
「それで、成の事についてですが。義兄さんへきちんとお話をする前に、どうやら妻が先走ってしまったようで、申し訳ありませんでした。」
父が弱った顔をして母を見た後に、伯父へ向かって頭を下げた。隣の母は気落ちした様子で、父にならう。
母が別人のように大人しい。不気味だ。
自分の両親は、昔からこうだったろうか。あまり覚えがない。
「改めてこちらの気持ちを言いますと、成を戻そうと思っています。アルファならともかく、オメガ性ですから、何かと不都合が、ね。」
そう父が笑いながら言う。
「子供を安全な環境に置きたいと思うものでしょう。義兄さんを信用できないという事ではなくて、―――信用しているからこそ九歳の成を預けましたし。だから、義兄さんがどうという訳ではなく、親としての責任の問題です。」
河埜家に預かられていた期間、父からはごく稀に―――二、三ヶ月に一度ほど連絡をもらうくらいだった。
責任感どころか、愛情すらあるのか疑わしい。
恐らく、成が何か失敗をしてしまい、それにより父が被害を受けたら困るから、こう言っているのだろう。
「お見合いをさせる事も、か。」
「いやいや、あれはコレが勝手にした事。」
コレ―――と、父が言いながら、母を指差す。母は何も言わずにただうつ向いている。
「いずれは相手を見付けてやらねばとも思いますが、成はまだ中学生ですから。さすがに早いでしょう。しばらくは番がいないので心配もありますが、手元に置いてしっかりと管理すれば、そう間違いは起きないでしょう。」
「管理―――。」
まるで成を物扱いするような言い方に、伯父が眉をひそめる。
「まだ子供ですから、大人が管理しなければ。なあ?」
「ええ、もちろんです。」
父の問いかけに、母が従順に頷く。イエスとしか言わないロボットみたいだ。自分の親を初めて気持ちが悪いと感じた。
「それに、プロの道を諦めたのなら、戻ってくるべきでしょう。棋士になれないのに、義兄さんの所に居続ける意味がない。」
―――止めて。
里弓に対して同じような事を言っておきながら、父へ嫌悪を抱かずにはいれなかった。
将棋の世界の事を、軽々しく話さないで欲しい。成の領域に、立ち入らないで欲しい。
―――それよりも、
伯父に傷付いたような哀しい顔をさせてしまい、成は自己嫌悪で吐きそうになった。
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