どっどっどっ―――と、成の耳元で心臓の音が激しい。 里弓から面と向かって大事だと言われた事はなく、初めての言葉に気持ちがフワフワと舞い上がってしまう。 ―――分かっている。勘違いはしてない。 家族としての言葉だ。 でも、こんなにも愛されている。もう充分ではないか。嬉しくて嬉しくて、走り回りたいくらい。 例え、この恋が叶わなくても、恋心さえ伝えられなくても、成は泣けるほど幸せになれた。 里弓からの言葉があれば、冷たく無機質な家でもきっと成は生きていける。 ―――僕は大丈夫。だから、 「里弓兄、ごめん。僕は―――」 「ストップ。おまえの嘘は聞き飽きた。何と言おうと連れて帰る。」 成の覚悟も気持ちも無視して、里弓が言い捨てた。 「ちょっと、里弓兄。無茶苦茶。」 「あぁ？おまえの浅はかな考えなんか、構ってられるか。」 「ひどっ。僕だって、」 「ちょっと、いいかい。」 父が苦く笑いしながら、二人の言い合いを止めに入る。 「さっきは里弓くんから散々言われてしまったが、成に愛情がない訳ではないのだよ。大事な息子だ。人並みに幸せになってくれれば、とも思っている。」 父が成の幸せを願っているようには、とても思えなかったが、まだ話の続きがあるようなので反論はしなかった。 里弓も不機嫌そうな顔をしつつも、一応は黙って聞いている。伯父は、―――何故か、面白そうにしている。何故だ。 「それで、だ。里弓くんの言うことが、本当だとして―――成が棋士になれるかどうかは、この際別にして。まあ、目指してみれば良いと思う。特に反対はしない。親としては出来る限りの援助をするから、将棋を続ければいいと思う。ただ―――、目の届く範囲でならば。」 将棋を続けても良い―――という父の言葉に、成はホッと息を吐いた。恐らく、母は続けて欲しくないのだろうけれど、父の許可があれば大丈夫だろう。 ―――良かった。将棋だけは。 対して里弓は、父の最後の台詞を聞くと、途端に目を尖らせた。剣呑な視線を受けて、父が苦笑いする。 「あのね、明け透けに話すが。管理しなかった為に、ろくでもないアルファに襲われて、妊娠でもさせられたらどうするのだ。泣くのは成だろう？そんな目に合わないようにする責任が、親にはあるのだよ。」 父が諭すように話すものの、里弓は鼻で笑う。 「それで、ゆくゆくは録でもないアルファと番にさせられるんでしょう？」 「成の為だ。安心できるアルファと番になるのが、成の幸せだろう。」 オメガへの暴行が罪に問われにくい世の中だ。父の考えも正しくはあるのだろう。 しかし、仕方ないと諦めてしまえるほど、成は大人になりきれない。 ―――番なんて。 「じゃあ、俺が成と番になります。」 ―――そう、番に。番？ 「は、あ？」 顎が外れそうなほど口を開けた成は、悠々と爆弾を落とした里弓を二度見した。