86 / 101
【王】第86話
成の背中に視線が突き刺さる。荷物をまとめつつも、後ろが気になって仕方ない。
母との話の後、自分の部屋へ向かったのだが、巧も後ろから着いてきたのだ。
「兄さんと俺、母親が違うの?」
巧にポツリと問われ、成は驚いて振り返った。
自分達が半分しか血が繋がっていない事を、巧は知らなかったのだと気付く。
とうの昔に聞いているものと思っていた。
―――どうしよう。
成の口から言っていいのか迷う。母は敢えて黙っていたのだろうし。
しかし、先ほどの母との会話を思い返しても、自分たち兄弟が腹違いだと察するような言葉はなかったと思う。
「本当の事が知りたい。兄さんから聞いたとか言わないから、教えて欲しい。」
「いや―――、まあ、うん。」
巧から真摯な顔で頼まれ、成は強く否定もできず曖昧に答えた。
「やっぱり。だから、母さんは。」
肯定も否定もしたつもりはなかったが、巧は勝手に解釈してしまう。もしかすると、以前から薄々は気づいていたのかもしれない。
頭の良い巧が気付かない筈はないのだ。それでも、ずっと知らないフリをしてきたのだろう。
腕組みをして考え込んでいた巧が、顔を上げ成をひたと見る。
「悪かったよ。」
「えっ?」
「聞こえただろ。二度は言わないから。」
ムスッと決まり悪い様子で巧が言う。
もちろん聞こえてはいた。まさか謝られるとは思っていなかった。
「母さんは違っても、兄さんは兄さん何だから、たまにはウチにも顔、見せろよな。」
「―――巧。」
巧なりの和解の言葉だと理解して、涙ぐみそうになる。きっとまだ成に対して思う事はあるだろうけど、徐々に兄弟としてやっていけそうな気がした。
成が染々と感動していると、巧がいつもの人を食った顔になる。
「つーかさ、里弓さんと結婚するんだって?」
「え、あ、いや、」
「兄さんが心配だなぁ。里弓さん、キングのアルファだろ?」
「知らないけど―――。って、里弓兄、キングなの?」
アルファの中でも、頂点に立つ優秀なアルファが『キング』と呼ばれている。確かな基準がある訳ではない筈だが、同じアルファには歴然と違いが分かるものらしい。
成が首を傾げると、巧が呆れた顔をする。
「ほら、そうやってぽやぽやしてる。奇跡が起きてる内に、さっさと番になれよ。キング相手なら、アルファだって抱かれたがるんだからな。」
―――奇跡、か。
実際のところ、里弓と番になれるかは半信半疑だ。やはり成を柳小路の家に帰さない為の方便だという気がしている。
本当になれるかは置いておいて、巧からの助言は有りがたく受け取っておこう。
「心配してくれて、ありがとう。」
「いや、心配じゃなくて、忠告だから。」
成がニッコリ笑って礼を言うと、巧に嫌そうに訂正された。
ともだちにシェアしよう!