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【王】第88話
この際、打ち明けてしまうが、江崎晴目(えざきはるま)には好きな人がいる。
片想いだ。
突然こんな告白をして、驚かせただろうか。
もう随分と長く想い続けているが、叶う見込みは微塵もない。そうと知りながら諦めきれず、拗れに拗れて、誰にも救えない状況だ。
最早、切なさを通り越し、呆れて己でも笑えてくる次元である。
バカな事をしたな―――と、目の前の人物を前に少し思った。
「好きな奴がいる。」
河埜里弓(かわのりく)が、晴目のマンションを訪ねてくるなり言う。腹をくくった様で、すっかり男の顔になっていた。
イイ男だ―――と、惚れ惚れする。
そんな里弓を前にしても、もちろん心は痛まない。なぜなら、晴目が好きなのは里弓ではないから。
「番になったの?」
「いや―――、それはまだ。」
明言しないが、里弓の好きな相手は、あの可愛い従弟なのだろう。端から二人の間に割り込めるとは思っていなかったが、こんなに急展開するとは。
「分かった。諦める。今後は、こんな風に連絡しない。棋士仲間としてよろしくね。」
「ああ、もちろん。」
ホッとした顔で里弓が笑う。晴目がずっとしつこくしていたから、今回もごねると思っていたのかもしれない。
「何で、俺だった?」
里弓に問われて、晴目は首を傾げた。
「江崎さんなら、いいアルファと番えるだろう?」
確かに、晴目はこれまでたくさんのアルファから口説かれてきた。各々に魅力的な男性ばかりであったと思う。
だけど、晴目はどうしても彼を好きだった。
―――あの人だけ。
晴目の好きな人を教えたら、どんな反応を見せるだろうか。里弓が驚く様子を想像して、笑いが零れる。
「君が好きな人に似てるから。」
「俺と?」
「そう。性格は全然違うけどね。やっぱり似てるよね、顔とか。雰囲気も少し。」
「顔?」
「若い時のあの人にそっくり。さすが親子。」
晴目の最後に発した単語を聞いて、里弓が目を見開く。
「は、あ?親子って―――、まさか、親父?いやいやいや。」
里弓が呻きながら、宇宙人にでも会ったように晴目を見る。やはり信じられないらしい。
―――そりゃそうか。
今まで好きな人の存在すら匂わせた事はなかったし、自分の父親に惚れていると唐突に告白されたのだから、この反応も当然だろう。
「あ~あ、ホント残念だなぁ。」
「まじかよ。」
朗らかに笑う晴目に、里弓が茫然と呟いた。
その顔を見ながら、もう一度頑張ってみようかと思ったりする。
淀み固まったこの恋が華々しく砕け散って、いつの日か前に進める事ができたらいい。
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