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【詰】第89話

お食事処『いろ葉』のかき氷は大きい。祭の夜店で売ってあるものと比較すると、軽く三倍の体積だろう。 山の頂上にはバニラアイスが鎮座し、その下にはチェリーやミカン、ブドウなどの生の果物が乗せられ、更にその下には凍らせたイチゴを削った果肉入りの氷が詰まっている。 このイチゴが絶品なのだが、いかんせん成には大き過ぎた。今まで一人で食べきった事はなく、伯父か従兄と二人で食べるのが毎年の恒例だ。 「うめぇっ!」 アイスや果物を経て、イチゴの氷の部分を食べ始めた永岡竜馬(ながおかりょうま)が歓喜の声を上げる。 「柳、氷がイチゴ!」 「気に入ったなら、良かったよ。好きなだけ食べて。」 パクパクと止まる事なくスプーンを口へ運ぶ永岡へ、成は苦笑いした。さすがの永岡も完食は難しいのではないかと思っていたが、要らぬ心配だったようだ。 対して、成はブドウの粒を口の中でいつまでも転がしている。 ―――あ~、どうしよう。ヘタレてきた。 この後、従兄の河埜里弓(かわのりく)と話をする予定だ。 今朝早くに、里弓へ連絡した所、恐らく三時過ぎまで仕事だと言う。夜でもいいかと問われたが、気持ちがヘタレない内に話をしたかったので、仕事終わりにそのまま会う約束をした。 意気込んで将棋会館を訪れたのだが、里弓の仕事は長引き、掲示板を見上げてぼんやりしていると永岡に会ったのだ。 そして、ゴタゴタに巻き込んでしまった事への心配料として、成はかき氷を奢っている。 今まで永岡へ話せなかった事も含めて、一連の騒動を説明したのだが―――。 「結婚したら、河埜って名字になるのか?柳って、呼べねぇじゃんよ。どうすっかな。」 永岡が真面目な顔をして呆けた事を言う。気まずい思いをして話した反応がそれか。 「いや、気にするとこ、そこじゃないよね?」 「だって、名前、大事だろ。」 「大事だけど、―――何か違う。」 ぷぅと頬を膨らませると、永岡が不思議そうに首を傾げる。 「里弓さんと、結婚したくねぇ訳じゃないだろ?」 「―――まだ里弓兄と話してないし。実感がなくて、夢の話をしてる気分だよ。」 「ああ、そうか。まだ気持ち、伝えてないのか。」 「うん。まだ。え―――、もしかして、知ってたの?僕の気持ち。」 驚いて成が問うと、永岡も驚きに目を見張る。 「は?隠してたのか?それで?」 それで?―――と、聞かれても、最近まで自覚すらしていなかったのだ。 ―――いつから気付かれて、 いや、違う。 いつから里弓を好きだったのかすら、自分でも分からないのだ。まさか永岡に知られているなど考えない。 ジワリと焦り、勝手に頬が熱を持つ。 「どう見ても、大好きだろ。里弓さんの事。」 永岡から追い討ちのように言われて、成はリンゴ色をした顔を伏せた。

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