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【詰】第93話

成はお腹の苦しさに唸りながら、ソファの背凭れに沈んだ。牛タンで胃がパンパンだ。身動きひとつしたくない。 里弓はというと、食事に使った器を食洗機に入れたり、テキパキと慣れた様子で動いている。一緒に住んでいた時は、ほとんど家事をしなかったから、やはり物珍しい姿だ。 「成。何か、飲むか?」 「ううん、大丈夫。お腹、いっぱいだから。」 十分程度で台所仕事を終えた里弓は、だらけた成を見下ろしながら、こちらへ来た。嫌みも言われなかったからゴロゴロしていたが、さすがにだらけ過ぎかもしれない。 成がソファから起き上がると、里弓が隣に腰を下ろした。腕が触れそうな近さだ。 ―――ち、近いよぉ。 今までは何て事なかった距離感なのに、成の体は不自然に強張った。更に、横から視線を受けて、どうすればいいか分からなくなる。 普通って、どんなだ。 「成。手、出せ。」 「手?」 言われるがまま成は手の甲を上にして差し出した。すると、里弓がおかしそうに笑う。 「こっち。」 成の手のひらを上に向けさせ、里弓が包み込むように覆った。大きな手の中に、成の手がすっぽりと納まっている。 その隠れた成の手の上に、何かが乗せられた。 「順番が逆になったけど。」 里弓が手を離す。 「なに―――」 手のひらに視線を落とすと、成の手のひらには細いチェーンが乗っていた。 ―――ネックレス? ネックレスを貰う意味が分からず、疑問符が頭の中を飛ぶ。 繊細な造りのチェーンだ。ペンダントトップはシンプルで、ひとつの黒い石が付いている。石の名前は分からない。成に宝石への知識は全くないので、見当もつかない。 そこまで観察して、成はハッとなった。ネックレスの意味に気付いたのだ。 ―――コレって、 オメガ用のチョーカー。 驚いて顔を上げると、里弓の真摯な瞳にぶつかった。成と目が合うと、少し困った顔で、照れたように笑う。きっと照れ臭くて堪らないのだろう。 その里弓の表情に、鼓動は跳びはね、目は釘付けになった。 「大事にする。浮気も絶対にしない。優しくもする―――ようにする、出来るだけ。」 ぷっ―――と、成は吹き出した。じわりと目に涙が滲む。笑っていないと、号泣してしまいそう。 「笑うなよ。失礼な奴だな。」 「だって、里弓兄。出来るだけって、なに。そこは優しくするって言い切ってよ。」 成は大袈裟に笑いながら、目元を拭った。 「仕方ねぇだろ。おまえ、苛めたくなるんだよ。」 里弓が話ながら、成の手からチョーカーを取る。 「知っての通り、こんな俺だからな。もう、おまえに拒否権はやらねぇよ。」 目の前をチョーカーがゆっくり過ぎて、成の首に掛けられた。

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