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【詰】第95話
「―――はぁ?」
驚きのあまり惚ける成を、里弓が呆れた顔で見返した。加えて、哀れなモノでも見るかの様な視線までくれる。さっきまでの慈しみに溢れた里弓はどこへ。
「僕を好きなのかなって、思ったんだけど、」
里弓から失礼な視線を一身に受けながら、成はボソボソと呟いた。
「おいおいおい。信じられねぇ。今さらそれを聞くのかよ。」
今さらなのか。
成としては、初耳のようなものだ。
確かに、両親の前では聞いたけれど、あれは方便だろうと、やはり本気にしてはいなかった。
「好きでもない奴を番にする訳ねぇだろうが。」
里弓は呆れより怒りが勝ったらしく、成の頭を鷲掴みにしてきた。握りつぶされそうな雰囲気に、成は反射的に悲鳴を上げる。
「ご、ごめんなさい!許して!」
「許さん。脳ミソ、入ってんのか?」
成の頭を横に揺らしながら、じわじわ里弓の手に力が加わっていく。
「頭、頭が、割れる~!」
「許して欲しけりゃ、番になれ。」
「なるからっ!番になります!喜んで!」
成が叫ぶと、里弓の手が弛んだ。いつものように放られると思ったが、里弓の手は離れる事なく、成の体を引き寄せた。
ぎゅっと抱き締められ、息が止まる。里弓の腕の力強さを感じ、目眩がした。
ヒートの時は、抱き締める程度で済まない事をしているのだけど、今は素面だ。
里弓からぎゅうぎゅうと抱き締められ、気を失いそうになる。
「あの、里弓兄?」
ガバッ―――と、里弓が急に体を離す。しかし、成の肩は握ったままだ。
怒ったような顔をした里弓と、見つめ合っている状態だ。成が首を傾げると、里弓が口を開いた。
「好きだ。」
好きだと言った。
今、確かに聞いた。
好きだ―――という里弓の声がこだます。
確かに聞いたのに、隙を見せれば言葉が逃げて行きそうで、頭の中で必死にリフレインさせる。
成が真っ赤になって硬直していると、沈黙に耐えかねたのか里弓が呻いた。
「あ~!!ヤバイ。耐えられねぇ。めちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇか。」
里弓が成の肩から手を離し、ガシガシと髪を掻く。信じられない事に、物凄く照れているようだ。
あの里弓が照れている。
―――か、かわいい。
「本当に?僕が好きなの?」
成が再度問うと、里弓が不味い物を食べたような顔になる。余程、こういう事を言葉にするのが苦手なのか。相手が従弟の成だからか。
さすがにキレても不思議はなかったけれど、誤魔化す事はしなかった。
「ああ、好きだよ。もう本当、勘弁。こっち見んなって。」
成がじっと見ている事に気付いて、里弓が顔を手で隠す。
大人の男性に思う事ではないかもしれないが、里弓の照れようが可愛くて、可愛くて―――。
どうしてくれよう。
この男。
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