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【桂】第16話

成の身に天変地異が起きた翌日、北海道から帰ってきた伯父の河埜新士(かわのしんじ)に連れられて、病院へ行ってきた。 半日をかけて院内をぐるぐると回りたくさんの検査を受け、解放されたのは夕方だった。検査結果は十日後に出るらしい。 ―――聞きたいような、聞きたくないような。 「で、どうだった?」 里弓がジャケットを脱ぎながら、伯父へ問う。 ちょうど成と伯父が帰宅した時、やって来た里弓と玄関先で鉢合わせたのだ。 「詳しくは再来週だそうだ。」 伯父がソファに沈むように座って答える。ひどく気疲れさせてしまって申し訳ない。 成は珈琲を淹れるためにキッチンに入り、ケトルを火にかけた。リビングから伯父と里弓の静かな会話が聞こえてくる。 「まだ結果が出た訳ではないが、医者が言うには、成がオメガと出た場合、考えられるのは二つ。元がアルファだったが、成長途中に何かの要因でオメガに変異した。」 「原因は分からない?」 「ああ、結局、分からないらしい。前例が無いわけではないようだが、ここ十年でも世界で四件しか発生していない。」 もし成がアルファからオメガに変異したのなら、日本では初めての事例らしい。 「もうひとつは、過去の検査が誤っていたという事。こちらの方が断然、確率は高い。高いと言っても、国内で年に一人出るかどうからしいがな。」 伯父が言うように、成もニュースで見た事がある。その時は、病院側が謝罪のための記者会見をしていた。 オメガである当人は公開されていなかったが、実際にはどうなのだろうか。周囲に知れ渡ると思えばゾッとなる。 「じゃあ、アルファと出た場合は?」 「オメガフェロモンを投与された疑いがあるそうだ。だが、これは注射器を使わなければならない。本人に気付かれずには難しいから、恐らく違うだろうという話だ。」 「じゃあ、オメガ―――」 伯父の説明に、里弓が途方に暮れたような声を出す。弱った里弓の声などそう聞けたものではない。 思わず苦笑いが溢れる。 元からオメガだったのか、後天的に変異したのか、どちらにしろ成はアルファで有り得ない。 ―――なんだ、そっか。 成は『出来損ないのアルファ』ではなかったのだ。 そう、アルファでさえもない。

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