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【桂】第19話

夕食の片付けをしながら、成はチラリとテーブルに視線を送った。こちらから見て、右側に伯父、左側に里弓がいる。 ―――早く帰ってくれないかな。 独り暮らしの家があるのに、実家に居座っている里弓の事だ。気まずくて仕方がない。 伯父は何も言ってこないが、恐らく里弓との間に起きた事はバレている。息子と甥っ子が体の関係を持ったのだ。 きっと内心では動揺している―――筈なのだが、あまりに今まで通りすぎて、気付かれていないのではないかと思ってしまう。 「成、体はどうだ?」 伯父から急に話しかけられ、危うく洗った皿を落としそうになる。 「うん、大丈夫。明日は学校行くよ。」 「来週からでもいいんじゃないか?」 オメガの発情期は一週間と聞くが、里弓を受け入れたせいか、成の異常は一日で治まった。念のためにしばらく休んだが、健康そのものだ。 受験生の成にとって、出席日数の無駄な消費は避けたい。 「もう何ともないし。平気。」 「心配だなぁ~。」 伯父が困り顔で呟き、考えるように腕組みをする。 「病院からもらった薬もあるし、大丈夫。」 「ならいいが。学校でも、スマホは手離さないようにな。何かあったらすぐ連絡するんだぞ。」 あまりに真剣な顔で伯父が言葉を重ねる。その過保護さに、成は思わず笑ってしまった。 「伯父さん、心配しすぎ。」 「だってなぁ。」 「あ、放課後に補習受けないといけないって。だから、帰りがいつもより遅くなるから。」 伯父へ話している途中で、里弓がコーヒーカップを持って立ち上がった。飲み終えたらしい食器をシンクへ置きに里弓が来るようだ。 近くに寄られるのは気まずく、成の顔がぐっと下がる。うつ向く成の横に並ぶと、里弓がカップをシンクに静かに置いた。 「迎えにいく。」 「え、」 成は驚きながら隣を振り返った。 里弓の言葉を聞き取れていたし、意味だってすぐに分かったが。 「補習、何時まで?」 「あ、えっと六時過ぎかな。って、いいよ。わざわざ迎えなんて―――」 成がブンブンと首を横に振ると、里弓の目がつり上がった。ヒッと息が止まる。 「あぁ?俺が迎えにいってやるって言ってんのに断んのか?」 「痛い痛い痛い!」 ガシッ―――と頭を握り潰す勢いで掴まれ、成は悲鳴を上げた。 「成、逆らってんじゃねえぞ。」 「里弓兄!わかった、わかったから!」 成の手は洗い物の途中で泡まみれだった。手を使えずもがくが里弓の手はビクともしない。 それどころか、ますます力を入れてくる里弓の両手に挟まれ、ギリギリと頭の中で音がする。頭蓋骨が崩壊寸前だ。 「だったら、何て言うんだ?『どうか僕を迎えに~』ほら、Say?」 里弓が成を見下げてニマニマと笑う。完全に成で遊んでる。実に楽しそうな顔だ。 ただ、頭を挟む力だけは遊びではない。 「ど、どうか僕を迎えに来てください!お願いします!」 「よろしい。」 里弓が偉そうに言うと、成の頭をポイッと解放した。 一応は心配しているから、迎えにくる―――と言っているのだろうが、行動がいじめっこ過ぎる。何故、強要されねばならないのか、全く納得はいかないが、とりあえず頭蓋骨が無事でなにより。

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