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【桂】第20話
久しぶりに登校した中学校では、文化祭の練習が始まっていた。わが校では、夏に文化祭、秋に体育祭がある。
どちらも二年生が主体になって行われるので、成たち受験生はお客さまに近い扱いだ。執行委員などの係りに入る必要はないし、準備も練習もしない。
元気よく声を掛け合う後輩たちの声を聞きながら、成はひとり教室でシャープペンシルを動かしていた。
―――いいなぁ。楽しそう。
「柳小路、どうだ~?」
集中力が途切れたのを察したのか、担任の古山俊輔(ふるやましゅんすけ)が声をかけてきた。
「もう少しです。」
「がんばれ~。」
成が答えると、古山がパソコンに向かったまま、間延びした声で応援してくる。
定期テストを作っているらしいが、さっきからキーボードを叩く音があまり聞こえてこない。恐らく、ネットゲームでもしているのではないだろうか。
―――麻雀とかかな。
対して、成は何をしているかというと、欠席分の補習課題だ。運悪くテスト期間であったため、放課後を使って再試験をしていた。しかし、期間を三日しか与えられず、一教科あたりかなりのハイスピードで済ませねばならない。
成はどうにかテスト用紙を埋め終わり、シャープペンシルを机に置いて顔を上げた。
「先生、終わりました。」
「おし、おつかれさん。よく終わらせたな~。」
古山がテスト用紙を回収に、ダラダラと歩いてくる。眠気がきていたのか、少し目が赤い。疲れているのかもしれない。
「たぶん点数はひどいですが。」
「終わればいいんだよ。適当で。」
教師としてどうなのかと思う事を投げやりに言い、古山がテスト用紙を受け取る。そこまで近付いて、古山の目の下にうっすらと隈ができているを見つけた。やはり疲れているようだ。
早く帰ろうと支度を始めた拍子に、成はふと思い出した。
「そういえば、草野さん、休みでしたね。」
教卓へ戻っていた古山が足を止めて、こちらへ振り返る。
「あ~、柳小路は知らなかったか。―――草野な、入院してるんだよ。」
「え―――、何で。」
「ちょっと病気でな。でも、一週間くらいで退院できるらしいから、心配ない。」
草野が重い病気ではないのだと分かり、成は詰めた息を吐き出した。
「良かった。」
「退院してもしばらくは休むが、また元気に登校してくるだろ。」
「そうですか。早く良くなるといいけど。」
草野が元気になって学校へ来たら、また一緒に帰ろうと誘ってみよう。
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