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【桂】第21話

校門の内の中学校の顔とも云えるスペースに、堂々と停まっている黒い車があった。駐車場はここより奥にあるから、駐車して良い場所ではない気がする。 成が慌てて黒いランクルに駆け寄ると、運転席に座っていた里弓が不機嫌そうな顔で出迎えた。 「遅い。」 「すみませ~ん。」 成は助手席に乗り込みながら、間延びした声で謝った。言ってから、古山のダルダル口調だと気づく。いつの間にか移ってしまったようだ。 おかしくなって成がヘラリと笑うと、横から舌打ちが返ってきた。 「寄る所は?」 里弓の問いで、成は冷蔵庫の中身を思い出した。 「えっと、牛乳。牛乳がなくなりそうだった。スーパーに行きたい。」 「まだ飲んでるのか?」 里弓がアクセルを踏むと、車が流れるように発進した。凶暴でも、運転は何故か丁寧だ。 「毎日、飲んでるよ。」 「その割りには、伸びないな。」 からかう里弓の言葉に、伸びないね―――と、成は投げやりに返した。 オメガと確定してはいないが、身長が伸びないはそのせいかもしれない。オメガは小さく華奢で、筋肉のつきにくい体質なのだという。 正に、アルファに愛されるための体だ。 そんな事を考えていれば、二人の間の空気が重くなる。静まり返った車内の助手席で、成はウロウロと視線を泳がせた。 ―――やっぱり、気まずい。 本当の兄のように思っている里弓と過ちを犯してしまったのだ。オメガかもしれないという事実すら未だに飲み込めていないのに、どんな顔をしていればいいのか。 里弓はというと、あの一夜はきれいサッパリ忘れたかのような態度だ。 「身長伸ばしたいなら、肉を食え。成長期にはたんぱく質だろ。今度、焼き肉に連れて行ってやる。」 「え~。」 「あぁ?」 成が異を唱えようとすれば、魔王のような顔で睨まれた。 出来ればしばらく里弓とは関わりたくないのに、兄として変な方向へ優しさを発揮してくれる。 心の底から放っておいて欲しい。 言えないけれど。

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