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ねこになりたくない-2
猫又・式は黒猫の姿に戻ったり人間の姿になったり。
「ちゃんと持てよ、こぼすな、汚ねぇ」
「う~~~」
人の姿でいるときは一先ずフォークを使った食事、幼児向けの絵本や練習帳を購入して読み書きを教えた。
「にゃぅ」
休日、猫の姿になれば肩に乗っけてすっかり秋色に染まった公園へ散歩に出かけた。
たとえ非現実的な出来事だろうと順応性が高く物怖じしない持ち前の性格で世にも不可思議な猫又との生活を隹は順調にこなしていた。
「これ。しってる」
金木犀の甘やかな匂い。
ミルクの優しい舌触り。
風の囁き。
毛布のぬくもり。
些細な触れ合いが以前の体験とリンクして深く沈んでいた記憶を式は緩やかに取り戻しつつあった。
「これ。まずい。そっち。食べたい」
わざわざ人の姿になって猫用おやつに不満を零し、たい焼きを食べたがる猫又に、隹は半分に千切って頭側を与えてやった。
人型になった時の見た目は高校生だが酒はいけるのか、冬の鍋のお供がミルクだなんて味気ない、そんな暮れのことを考え始めていた矢先に。
「うにゃああぁあああぁあ」
休日恒例にしていた夕方の散歩、最近暗くなるのが早くなり、寒さも増してきたので、まだ日の高い時間帯に公園へ向かってみれば肩に乗っていた式が妙な鳴き声を上げた。
隹が何事かと立ち止まっていたら鳴き声につられたかのように一人の少年が駆け寄ってきた。
式は何の迷いもなく隹の肩から少年の腕の中へ。
隹の知らない名前を連呼しながら笑顔で泣きじゃくる少年にこれでもかと擦り寄った。
式の元飼い主だった。
自分がこれまでに一度も見た覚えのない甘ったれた態度で少年の懐に抱かれている式を前にし、隹は、その場で決断した。
元飼い主に式を返した。
猫又と過ごしたひと月の生活に自ら呆気なく終止符を打った。
「おじさん、ありがとうっ」
「おじさんじゃねぇ」
三十路寸前の隹はそう言い捨て、何かお礼をしたいと言い張る少年を無視し、家族連れや恋人、友達同士、お一人様がそれぞれ思い思いに過ごしている枯色の公園を大股で去った。
俺といるよりあのガキと一緒に暮らした方が式のためだろう。
公園に行く途中で買った、二つのたい焼きが入った紙袋も渡してこればよかったと、まだ仄かに温かい肩を無情に風に嬲られながら彼は後悔した。
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