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ねこになりたくない-5

「隹、おうち、飾らないの」 多くの人々が心待ちにしている大イベント、その名もクリスマスを何ら心浮かれるでもなく淡々と迎えていた隹は式に問いかけられて……。 人いきれが少々煙たいくらいに一段と混み合う冬の街。 「これがいい」 「それは売り物じゃねぇ、ディスプレイの一部だ、そもそもんなでかいのウチに入るか」 セレクトショップのショーウィンドウに張りついて特大クリスマスツリーを繁々と見つめる式、先日買ってもらったジャケットのフードを目深にかぶって黒猫耳を隠していた。 「これでいいだろ」 店内の片隅にポツンと置かれていた売れ残りのミニツリーを隹が指差せば「小さい」と正直に不平を洩らした。 「おれ、おぼえてる。前はもっとキラキラ、ふわふわ、チカチカしてた」 「キラキラとチカチカは同じだろ」 「みんな、楽しそうだった。笑ってた。隹みたいに膨れっ面じゃなかった」 「膨れっ面で悪かったな」 「いっぱい、いいにおい、してた」 「最近小うるせぇなお前」 そんな小うるさいところも内心可愛いと思っている隹、購入したツリーを雑に小脇に抱えて店を出、またショーウィンドウに張りついた猫又に肩を竦めて隣に寄り添った。 未練があるのか、前の家に。 あの小さな主人の元に戻りたいのか。 行列に並んで定番のチキン、またも売れ残りのホールケーキを買い、ツリー以外の荷物は式に持たせて隹は家路についた。 「おもたい」 「それくらい我慢しろ」 擦れ違う人の波に攫われないよう片手で式の肩をしっかり抱いて、白昼だとお粗末なイルミネーションの抜け殻達が這う冬の街を後にした。 「おいしい」 チキンにかぶりつくなり式は切れ長な双眸を珍しく素直に輝かせた。 当然、前の家では普通の猫と思われていたため高カロリーな食事は与えられていなかった。 初めて口にする油っこいジューシーなお肉に猫又はたちまち夢中になった。 「おいしい」 「ここ一番のリアクションだな」 ダイニングテーブルで向かい合う、肘を突いて片手でチキンを食す隹、両手で掴んでむしゃむしゃしている猫又。 普段よりも落とされた照明。 リビングの片隅にはキラキラ、ふわふわ、チカチカしたミニツリー。 窓の外は凍てつく宵闇にすでに呑まれていた。 「へたくそ」 骨が邪魔で式は食べるのに苦心している、口元も指先も油でベタベタだ、仕舞いには骨にまでかじりついて噛み砕こうとするので見兼ねた隹は席を立った。 「歯、折れるぞ」 「う~~~」 すぐ隣にダイニングチェアを無造作に下ろして浅く腰掛け、骨をガジガジしている式の口元からチキンを離す。 「やだ、たべる、おれの」 「横取りしてるわけじゃねぇよ、骨まで食うな」 「おれの!」 いつになくムキになって、なかなか食い意地が張っている猫又は隹からチキンを奪い返そうと躍起になった。 隹おさがりのパーカーをだぼっと着、暖房を念入りに効かせた室内で曝された生足、寒さが増してきた最近では爪先が冷えないようモコモコ靴下を履かせていた。 「んっ」 戯れに隹はキスした。 食欲をそそる香りに塗れた唇をしばし味わった。 「うまいな」 「……ごはん中は……やだ。肉。かえせ」 「もう一口」 「んーーーっっ……やだ……っ肉、たべるっ……たべたいっ」 戯れのつもりが不意に欲望に火がついて食事中に浅ましく盛った隹は、チキンを食べたがって舌に噛みついてこようとする式の唇を巧みに発情させていく……。 「ほら、じゃあ食えよ、口移ししてやる」 「っ……自分で食べるっ、んっ、んぷっ……んむっ……!」 「柔らかいとこ、全部やる。好きなだけ食わせてやるよ、式」 「っ……っ……隹のばか……っっっ……!!」 聖なる夜、結局いつもと変わらず隹に貪られゆく猫又の式なのだった……。

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