37 / 198

アンチ・リビングデッド・アンデッド・キラー-4

プールを囲むようにしてぐるりと広がる、南国リゾート風に造られた高級感溢れる建物。 その奥の一室、毛足豊かな絨毯の上に脱ぎ捨てられた服と武器の数々。 どくん…………っ 「あ……あ……!」 薄闇に限界まで反った白い喉。 首筋に浅く埋まっていた歯列がさらに深く喰い込む。 開放的な窓辺から差し込む月明かりに仄かに浮かび上がった震える爪先。 裾が焦げついた黒シャツを羽織っただけの式は腹底を支配されゆく感覚に溺れた。 勢いある放精に仮膣を明け渡し、喉骨を引き攣らせ、第一絶頂を全身で痛感していたら。 「っ……え……?」 速やかなる律動の再開にぎょっとした。 いつも以上に乱暴に体を押し開かれて最初は抵抗していたものの、奥まで打ちつけられる熱い楔に理性は溶け、拒んでいた屈強な体躯に結局は縋って甘い堕落を共有して。 しかしあまりにも早急な再開に戸惑う。 盛った獣さながらに動く彼の青水晶を怖々と見上げてみた。 「ッ……隹……」 何も言わないで、睨むように私を見て、こんなにひどく……するなんて。 怒っているんですか……? どうして……? 「あっ……待っ、ぁ……そんな奥ばかり……っやめ……っ」 力任せに両足をより開かされ、一度絶頂を迎えても尚怒張したままのペニスで最奥を立て続けに突き上げられた。 式は苦しげに悶えた。 隹は低い息遣いを単調に反芻して式を揺さぶり続けた。 どうしようもなく滾る楔で狂おしく収縮する仮膣を無造作に引っ掻き回した。 「んーーー……っっ」 目尻に涙を溜め、式は、屈強な肩に爪を立てた。 「どうして、こんな、ひどく……っ」 涙ながらの訴えは欲望に突っ走っていた隹の動きをやや静めたかのように思われた。 「どうしてずっと何も言わないんです、隹……?」 伏し目がちに切なげに見つめられた隹は。 乱暴に式を抱き起こすなり怯えていた唇にキスを。 柔らかな舌に絡みついた傲慢な舌。 満遍なく温もっていた口内を我が物顔で犯す。 唾液を鳴らし、歯を立て、舐め上げ、同時に肉奥に突き立てたペニスを窮屈な窄まりで本能を剥き出しにしてしごかせた。 「んっンっ……ふ、ぁっ……ン……ッ」 痕がつくほどに双丘を掴まれて肉杭を打ちつけられ、呻吟する式に、隹は答えた。 「ああ、敢えてひどくしてる、神父」 キスの最中に囁かれて式は濡れがちな双眸を見開かせた。 「あんたは大罪を犯そうとした、そのお仕置きだ……」 「ン……っ……んっ……んっ……っ」 「その身でもって償ってもらわないとな」 次は四つん這いにされて後ろから。 汗ばむ両手で細腰を固定され、激しく、不規則に。 「あ、あ、っ、んっ、ぅ、う、あっ、んっ」 広いベッドのシーツを手繰り寄せ、かつてない独裁的な振舞にわけもわからず怯えている式に、隹はとどめの言葉を振り翳す。 「またあんなことしやがったら干乾びたお前を犯してやる」 ゾンビ化して行き場を失い彷徨う自分が蹂躙される。 恐ろしい悪夢に耐え切れずに神父はとうとう嗚咽した。 「やめて、隹……っっそんなこと……お願いだからやめて……」 「案外よすぎてマトモに戻るかもしれないぜ」 「やめなさいっ……もしも……私がゾンビになったら……いっそのこと貴方の手で、」 「やめろ」 不意に近づいた囁き。 「置き去りにされたコッチの苦痛も知らないで安らかに眠るなんて許さない」 まるで我が身に繋ぎ止めるように綴られた抱擁。 「俺を置いていくな、神父」 式は何度も瞬きした。 肌と肌が一段と触れ合って隹の温もりが伝わり、真摯なる願いが鼓膜のみならず胸にまで届き、巣食っていた不安が徐々に薄れていく。 「もう俺の前であんな真似するな」 「隹」 「いや、俺から離れていようと、絶対に」 窒息しそうなほどの抱擁はむしろ心地いい。 求められているのだと実感できるから……。 「貴方だって……置き去りにしかけたじゃないですか」 隹は何度も瞬きした。 「一人で街へ出て、なかなかここへ戻らなくて、どれだけ心配したか……」 「あれは大行進に遭遇して戻るに戻れなかったんだよ、不可抗力だ」 「貴方も約束しなさい」 肩越しに濡れ渡った双眸で命じられて隹は不敵に笑う。 「未成年だって知った途端保護者ぶるな」 「私のこと、置き去りにしないって……無茶しないって……」 「そんなに俺にそばにいてほしいのか」 世界は朽ちかけているというのに。 二人きりのベッドの上はこんなにも甘い。 「私のそばにいなさい、隹……」 肌蹴た胸元にまで飛び散った白濁の雫。 「あ、ん……っはあっ……はあっ……ン……っ」 捩れたシーツに頻りに片頬を擦らせ、式は、自身の粗相に真っ赤になった。 「こ、こんなに、私……はしたない……」 放埓に射精した自分を恥じらう神父に改めて催す隹。 「確かに、な……いっぱいでたな」 「っ……やめてください、わざわざ口にしなくたって」 再び仰向けにされて胸を大きく上下させていた式にもっと重なる。 滑らかな肌に散っていた雫をわざとらしい舌遣いで大胆に舐めとってやる。 「っ、っ、隹、だめ、です」 「まだ勃ってる」 「ッ……やっ……!」 胸元を舐められながら達したばかりのペニスを握り込まれて式はゾクリと身震いした。 筋張った五指に白濁が絡んでクチュクチュと音が立つ。 これまでの人生において一番の発情に呑まれて、露骨な愛撫に過剰に感じてしまう。 「そんなさわられたら、私……また射精してしまいます……」 「なぁ、神父、いくって言えよ」 「え……? どこに行くんです……?」 「……わざとか、それ」 「……何がわざとなんです?」 隹は笑った。 掌の内側で脈打つペニスを念入りにしごき、胸の突端をやんわり吸い、快楽を素直に受け入れてヒクつく式に見惚れた。 「ほら、いけよ……」 「やっ、ぁっ……また射精しちゃ……っ……い……いっちゃいます、隹……」 「さすが神父、呑み込み早いな……俺も、また……今度はあんたと一緒にいってやるよ」 「隹、隹……っ……っ名前で……ちゃんと私を呼んでください……」 「……気持ちいいか、式」 「ッ……いいです…………どうしようもないくらい……」 「俺もだ」 愛しいひと。 戻って来てくれてありがとう。 一人で遠くへ行かないで。 一人にしないで。 この世界を去る時は二人で共に。 「貴方にあげたかったんです」 美しいロザリオを捧げられた隹は式に強請る。 「あんたがかけてくれよ、神父」 強請られた式は屈んだ彼の頭に形見のロザリオをそっと通して首にかけてやった。 「無敵になった気分だ」 「それはよかったですね」 「綺麗な十字架だな。気持ちが戒められる。あんたに触るのもしばらく控えるか」 「え」 思わず呆気にとられた式に隹は愉しげに笑いかけた。 「今がっかりしたか、式?」 朽ちかけた世界の片隅で爪先立ちし、未成年に自ら不器用なキスをした罪深い神父なのだった。

ともだちにシェアしよう!