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兄弟偏愛シンドローム-2
診断が下されてから一ヶ月ほどが経過した。
一週間ばかり部屋に閉じこもり、学校へ登校するようになった式だが、ここ数日間また立て続けに休んでいる。
「はぁ……」
昼過ぎ、外は雨だった。
毛布の中で胎児のように丸くなった式。
息が荒い。
熱病じみた様子で頬どころか服の下の全身まで紅潮させている。
月のものが始まって、病院から教わっていた通りに処置をし、式にとって悪夢の一週間が終わって、それからしばし日数が経過した頃だろうか。
「……ン」
落ち着きなく寝返りを繰り返し、抱きしめていたクッションに顔を埋めた式は。
先程、自己処理を済ませたばかりだというのに、再び火照り始めている股間にぎこちなく触れた。
もう嫌だ。
こんな体、棄ててしまいたい。
脳内で悲鳴を上げながら、もう服が汚れるのも構っていられず、毛布の下で式はそれを始める。
すでに先走りが滴っていた硬いペニスをクチュクチュと撫で上げる。
喘ぎ声をクッションに吸い取らせて、背筋をびくつかせ、服の下で自身を追い上げる。
「ん……ぅぅ……」
突然変異した場合の初期に顕著に見られる症状だという。
こんなの……まるで獣だ、交尾のための発情期だ。
学校どころか外へも出られない。
いっそのこと、このまま朽ち果ててしまいたい。
一向に火照りが静まらない自身を慰めながら式は密かに涙する。
窓の外で奏でられる雨音。
性に強制された興奮で麻痺する五感。
まるで気付かなかった。
「可哀想にな」
学校をさぼって無断早退した、それでも学内において最も成績優秀な生徒であるため教師から然程お咎めを受けない隹が、いつの間にか式の部屋に入ってきていた。
薄暗い部屋の片隅、毛布が盛り上がったベッドに焦点を合わせて兄は笑う。
「最初の月経が終わって、次まで後半月くらいか?」
制服のブレザーをイスの背もたれに引っ掛け、ネクタイはそのままに、ベッドへ直行した隹は毛布をすっぽりかぶった式に覆いかぶさった。
「ッ……」
毛布下でビクリと反応した弟に愉悦する鋭い双眸。
「入れろよ、式」
まだはっきりと解明されていない突然変異に関する数少ない情報を掻き集め、発情期にも似た症状が起こることをすでに把握していた隹は安らかに畳みかける。
「俺が楽にしてやる」
「……、……」
「兄弟だろ?」
一時は血の繋がりを枷だと思っていたこともある隹は平然とそう言って退け、式の返事を待たずに毛布の内側へ強引に潜り込んだ。
「ッ……やめ……」
ぶわりと肌身に押し寄せてきた熱気。
「苦しいくせに」
「隹、にい、さん」
「弱いお前のことだから死にたいとか考えてたんだろうな、なぁ?」
ベッドから抜け出そうとした式に両腕を絡ませて引き留める。
背中から抱きしめて全身を隈なく蝕む欲深な火照りを味わう。
「熱いな」
首筋に触れる兄の声に齎された甘い戦慄。
「お前の熱で溶けそうだ」
何の迷いもなく血が集中する場所をその掌に暴かれて嗚咽する。
「あ……っやだ……ッ」
自分よりも大きな手に包み込まれて。
荒々しく愛撫される。
ビクリ、ビクリ、息の根でも止められるかのように痙攣する肢体。
「あ……っあっあっ……ぁっ」
どうしよう、声が、勝手に、止まらない。
また濡れる。
ずっと……勃ってる、こんなの……どうしたら……。
「ここに、」
式のペニスを熱心に擦り上げながら、隹は、双丘の窪みに指先をそろりと這わせた。
「ッ、ッ、!」
「ペニスを挿入して、中で射精したら、お前、孕むんだよな?」
満遍なく汗ばんでいる首筋に軽く口づけ、溢れ続ける蜜を掬ってとろとろにした指を後孔にゆっくり突き刺してみる。
「ッッッッ」
初めての指姦に湧き上がったのは嫌悪感や恐怖を凌ぐほどの。
「……指、挿れただけでいったのかよ」
「や、やめ、そこ、いや……だめ……っ」
「……疼くのか、式?」
ぬぷ、ぬぷ、浅いところで指が出し入れされて式は声にならない悲鳴を上げた。
性に支配された体が猛烈に欲しがる。
発情期に強いられた疼きが加速する。
酷なまでの唐突さで一息に最奥まで貫かれると紛れもない嬌声が。
「いやぁ……ッ!!」
ペニスの頂きが新たな白濁の蜜でたっぷり染まった。
それでも熱は衰えずに宿り続け、脈動し、連鎖するかのように後孔はヒクついて兄の指を容赦なく締めつけて。
毛布の中の薄闇で絶命寸前の獣のように息を荒げる式に隹はさらに身を寄せた。
「なぁ、式、ここに、」
濃厚なる蜜汁でねっとり濡れていた兄の手が次に到着したのは式の腹の上だった。
「俺とお前のこども、孕め」
『式は俺のもの』
無理矢理もぎ取ってでも禁断の果実を奪いたかった隹はこの機を狙っていた。
『おにいちゃん』
幼い頃から愛していた。
一時は兄弟であることを呪いもしたが、次第に絶対的な繋がりに結ばれた縁を尊ぶようになり、下手に焦らず、先ずは女を疎んじるように仕向け、いずれ必ず自分のものにしようと思っていた。
式がこどもを孕めるようになるなんて。
幸運以外に何がある。
「あぁぁ……っ!!」
体がバラバラになりそうなほどの凄まじい快楽。
式の雄膣奥を絶え間なく突き上げる隹のペニス。
禁断の交わりに勃ち続け、さらに大胆に濡れていく式のペニス。
「だ、め、兄さん、だめ、これ以上っ、もうっ」
すでに兄が放った飛沫で後孔は温み、ぶちゅぶちゅと音を立てており、理性と快楽の狭間で式は泣き腫らしていた。
「隹兄さんのこども……できちゃう……」
切れ長な双眸を涙で水没させた弟に隹は笑いかける。
「俺達のこどものためならタバコ、やめられそうだ」
隹兄さん……。
本気なんだ。
「やだ……怖い、俺……っまだ何もわからないのに、そんなっ、こども産むなんて、」
「ワガママ言うな」
多感に発熱している雄膣をグリグリと小突かれて式の悲鳴は喘ぎに変わった。
「お前が孕んだら、こんな家、捨ててやる」
「あっ……あんっ……あっあっあっ……」
「何だって手に入るさ……俺とお前でこどもがつくれるんだからな……」
式の両足を肩に担ぐようにして持ち上げた隹は雄膣のより深いところを突いてきた。
かつてない興奮で勃ちっぱなしのペニスをじっとりと締まる肉の内側に激しく擦りつけては小刻みにしごかせた。
「あんっ」
「式……孕むまで射精し続けてやるよ」
「兄さん……いやぁ……」
「やっと俺のものになった」
隹は式にキスした。
このまま窒息してしまいたいと、兄の腕の中で弟は思った。
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