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吸血鬼に捧げるラブ・ソング-2

そばまで近づいた瞬間、荒々しく伸びてきた腕に囚われた。 ベッドに倒されて、すぐさま落ちてきた唇が呼吸を奪い、思考を絡み取った。 懸命に塞ぎ止めていた欲望が溢れ出して混じり合うように、渇望し、深い繋がりを求める。 式の心の奥底にも隹と同様の想いが密かに宿っていたのだ。 自分自身でも知らずにいた、無意識に鍵をかけて閉じ込めていた感情だった。 「あ……ッ」 もどかしい手つきで互いの服を脱がして肌を重ねた。 隹の下肢が両足の狭間に隙間なく沈められると式は仰け反り、呻吟した。 唐突に始まった激しい律動にベッドが軋む。 式の骨や肉も経験のない感覚に堪えきれず悲鳴を上げた。 間もなくして苦しげだった声は火照りを孕んだ息遣いと化した。 魘されるように呼号して切れ切れに震え、昂揚した響きを伴う。 隹は式の奥まで幾度となく深く交わるようにした。 彼の隅々まで感じたく、角度や体勢を少しずつ変えては新たな領域を貪欲に侵攻していく。 限界の縁まで挑むような獰猛な動きであり、最初、微かな皺を刻む眉間には複雑な煩悶が滲み出ていた。 やがてそれは一つの感情に落ち着き、他は意識の外へと追いやられ、汗に塗れて捩れたシーツの上だけが今の彼の全世界となった。 瞼を閉ざして濃厚な揺さぶりに身を任せていた式は、うっすらと目を開いて、真上に迫る隹の逞しい上半身を見る。 「はぁ……ッ」 隹は低い吐息を時折洩らしていた。 その右胸にはむごたらしい三条の爪痕が走っており、汗ばんだ硬質の皮膚の上で猛々しい動きに同調し、静止する事なく頻りに蠢いていた。 以前、式を庇って怨敵の使い魔に負わされた傷跡だった。 身の内を解し蕩かされて喘いでいた式は、腕を伸ばしてその傷に触れた。 指先に違和感のある感触が伝わってくる。 覚束ない仕草で何度かなぞっていると隹の攻めに更なる猛りが加えられ、式は一段と身悶えた。 皮膚と皮膚が音を立ててぶつかり合い、肉欲の蜜が狭間から溢れ落ちて肌を白濁に濡らしていく。 滴るような口づけで唇を潤ませて、いつになく奔放な舌と同様に視線も絡ませて、冷めやらぬ欲望の温度をその都度確かめ合った。 「……隹……」 最初で最後の夜。 そう思うと欲望は尽きなかった。 いつの間に流れていた涙の冷たさが熱せられた肌に心地よくて、一度息をつき、俯せとなった式は隹に願った。 「……もっと深くまで、もっと……まだ……」 願った次の瞬間、背中にかかる重みが増した。 式は一瞬切なげに眉根を寄せて声を上げた。 シーツを掴んで、突き上げられる度に声を迸らせる。 腹の下へ潜り込んできた手が己の熱塊を突き止め、執拗に愛撫されるとすぐさま勢いよく果てた。 しかし隹はやめなかった。 式もまたそれを望んでいた。 自分の鼓動を、そして相手の体温を痛感するように、二人は延々と求め合った……。 式が目覚めるとすでに隹の姿はなかった。 その瞬間に、彼はわかってしまった。 部屋の隅に置かれていたボストンバッグも共に消え失せているのを知る前に、もう、隹が何を考えていたのかを知ってしまった。 言葉を失い、裸のままベッドの上で放心していた式は、一晩かけて隹が肌に刻んだ息吹がその身に不意に荒々しく蘇るのを感じた。 いいや、まだ間に合う。 間に合わせなければ、絶対に。 彼を一人で死なせはしない。 式は新たに己の心へそう誓い、夕闇が迫りつつある窓の外を真っ直ぐに睨みつけた。

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