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グロテスクブルー-4
許しを得た隹は式を抱き寄せた。
唇を重ねる。
最初は目を閉じて、吐く息が次第に熱を孕むと互いに薄目を開けて。
口腔で立つ柔らかな水音を耳元で痛感しながら。
「は……ぁ」
式は隹を跨ぎ、その頭を抱き締めた。
唾液の絡まる濃厚な口づけに頭の芯がぐらつく。
愚かな性を恥じるよりも明け透けな欲望に全てを委ねたくて飢えた動物のように彼を求めた。
そう。
彼はこんなにも身勝手で愚かな俺を許してくれる。
業の深い本性ごと俺を受け止めてくれる。
「可愛いな、式」
糸を引いた唾液を断ち切り、隹は、頭上で陶然と自分に身を委ねる式に笑いかけた。
「ずっとお前が欲しかった。忘れたことなんてなかった」
隹は式をうつ伏せにした。
皮膚の薄い首筋を甘噛みし、前に回した手でシャツを肌蹴させていく。
小刻みな口づけは露にした背中を辿って腰元へと落ち、式は過敏に打ち震えた。
ベルトを緩めた手が下肢の着衣をずらして直にそこへと触れる。
唾液を纏った舌先は双丘の狭間を掠めて窄まりを微かに濡らした。
「あ……ッ」
あられもなく勃ち上がった昂ぶりを撫で擦られながら狭間を隈なく湿らされる。
式は肘掛にしがみついた。
余念のない舌遣いと手つきに喉奥で呻吟し、もどかしげに腹筋を戦慄かせた。
「あの頃とは違うな……お前がこんな風になるなんて想像もしてなかった」
少女のように華奢だった昔の式を思い出して隹は呟いた。
今、自分の下で身悶える彼は完全なる雄だ。
体格も立派になったし声色だって随分違う。
かつて絶頂時に奏でられた甘い悲鳴は少女のそれとも等しかったのだから。
「ん……ぁ、ぁ……ッ」
握り締めた熱源は脈打つ程に膨張していた。
洩れ出る声が刺激的で堪らない。
肩口から腰元へと連なる曲線は美しく、よく締まった双丘が快感で震えるのは喉が鳴りそうなほどに性的な飢えを加速させた。
「お前を俺だけのものにできたらどんなに幸せだろうな、式」
尖らされた舌尖が露骨な刺激に収縮する粘膜を突く。
筋張った手はすでに屹立した熱源を緩やかに扱いており、式は切なげに吐息して背筋を痙攣させた。
「もうイクか?」
問いかけにかろうじて頷いた瞬間、仰向けにさせられた。
隹の面前に怒張した自身を曝す羽目になり、式の頬は前にもまして紅潮する。
「すごいな」
笑みと共に息を吹きかけられる。
式は切なげに身悶え、足元で蹲っている隹をためらいがちに見やった。
「どうしようか、式。どうしてほしい?」
先走りに濡れた自分の指先を隹は舐め上げた。
大胆に伸ばされた舌先が器用に滑りを絡め取っていく。
露骨な振舞を目の当たりにした式は自分がそうされているような錯覚に陥り、思わず生唾を飲んだ。
「口でしてほしいか?」
快楽に忠実な眼差しとなって式はもう一度頷く。
頭を屈めた隹の口内に傲然と捕らわれると艶めいた声を上げ、腰を跳ね上げた。
「あ、あ、あ……隹……っ」
吸いつかれ、歯列で緩々と解されていたかと思えば、激しい口淫が始まる。
濃厚な舌遣いは式を速やかに放精へと導いた。
隹はそれでも離れなかった。
舌の上に広がった苦々しいそれを全て飲み干し、嬉々として己の体内に取り込んだ。
一度の吐精で自制の枷が完全に解けてしまった式は隹を希う。
「欲しい、隹……俺の中に来て……俺を抱いて……」
陶然と縋りつく式を容易に抱き上げ、指差されたベッドルームへ移動し、隹はそこで服を脱いだ。
着衣が乱れていた式も裸にしてベッドに沈め、より甲斐甲斐しく口づける。
伸ばした舌を絡ませ合いながら屹立した己自身を式の奥深くへゆっくり進めていった。
「ん……俺の中に……きてる……」
「ああ、式」
昂ぶりの全てを押し入れられると式はもどかしげに仰け反った。
白いシーツに深い皺が刻まれる。
力なく開かれた薄赤い唇の際を舐りつつ、隹は狭苦しくも熱烈な肉壁の抱擁をじっくりと堪能した。
「昔よりきつい……食い千切られそうだ」
互いに汗ばんだ正面を重ね、力んだ先端で円を描くように肉の奥をなぞる。
式は甘い悲鳴を上げて逞しい肩にしがみついた。
彼が動く度に反応し、久々のセックスに狂喜する熱源から粘ついた雫を次から次に溢れさせる。
手を伸ばして扱こうとしたら抑えられた笑い声と共に止められた。
「まだ駄目だ……さっきイッたばかりだろう?」
「だって……こんなの、もう……おかしくなる」
「なっていいさ」
隹は式を抱き起こした。
両膝を突いた式はさらに深くへ入ってきた隹に背中をしならせる。
密着していた正面に少しばかりの距離ができた。
胸の突端に滲む、色味が際立ち始めた尖りを隹は上下の唇できつめに摩擦した。
「あ……!」
隈なく濡らされ、むしゃぶりつかれ、丹念に蹂躙される。
同時に下肢に欲深な律動を与えられて式もまた放埓に腰をくねらせた。
「セックス、うまくなったな」
派手に鳴り続けるベッドの軋み、延々と奏でられる粘着質の音色。
加減無しに押し寄せてくる快楽の波に理性を攫われた式は隹を見つめた。
「お前は誰よりも綺麗だよ、式」
隹はもう一度式をシーツに押し倒すと最も激しい動きに至り、二人はほぼ同時に絶頂の一瞬を刻んだ……。
「どうして離れたい?」
学園の敷地内にある、冬枯れた雑木林の鋭いまでに冴え渡った空気の中で二人は向かい合っていた。
「貴方といると、きっと息ができなくなる」
周りが見えなくなって檻の中に二人きりでいるような閉塞感に襲われて。
世界が……止まってしまう。
「それなら二人で死ねばいい」
隹は笑った。
そんな言葉に、式は、凍てついた冷気の澄んだ匂いの中に血の臭気が紛れる幻想を抱いた。
「そんな結末は恐ろしいか、式?」
いいや、ちっとも。
その狂気寸前の愛情に溺れて息ができなくなることも、破滅の道を行くことも、そんな終わり方も。
何もかも失われても貴方がいるなら怖くない。
そう思えてしまう自分自身が何よりも恐ろしくてならないんだ、隹。
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