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Sweetness/義兄×義弟

■母親の再婚により兄ができた。 「ちゃんと兄さんって言え」 三つ年上の隹。 鋭い双眸で不敵な雰囲気ながらも世話好き、いつだって自分を気にかけてくれる、男らしく成長していく精悍な兄に憧れる弟……。 「好きな奴のことでも考えたらいい」 ※未成年の飲酒シーンがあります どうしてこんなことになったのだろう? 「好きな奴のことでも考えたらいい」 掌が抱く薄闇に目元を覆われた式は頭の中で隹の台詞を反芻する。 俺が好きな人、それは……。 一年前、式の母親はある男性と再婚した。 新しい父親は複数のレストランを経営する実業家で、十四歳だった式は母親と共に彼のプール付邸宅へ移り住んだ。 天井のシャンデリア、見慣れない暖炉、名のある作家の絵画に美しい光沢を帯びた調度品、家にあるものすべてが色鮮やかに輝いて見えた。 中でも式の目を最も惹きつけたのは。 「お前が今日から俺の弟になるわけだ」 それまで新しい家族との食事や旅行を延々とキャンセルしてきた、初対面となる、義兄。 長めの髪をハーフアップで縛り、青水晶の双眸を持つ、三つ年上の隹だった。 自分と母親に会おうとしなかった彼に対し、顔を合わせるまで不安や懸念を抱いていた式だったが、一目見た瞬間そんなものは吹き飛んだ。 ただ純粋に憧れた。 「お前の部屋のインテリア。俺が考えた」 この人が今日から俺の兄さん……? 「写真で顔は見てたからな、勝手に好みとか想像して適当にやってみた。気に入らなかったら明日変えればいい」 隹に案内された部屋は落ち着いたモノトーンに統一されていた。 シンプルながらも見栄えのいい数々のインテリア、一般的な十代前半の感性ならば時期尚早で少々物足りなかっただろう。 同級生よりも趣向が大人びている式は感想やお礼を言うのも忘れて新しい部屋に釘づけになった。 隹は式にも彼の母親にも壁をつくらなかった。 鋭い双眸は一見して近づき難いが、彼は、意外なくらいの世話好きで新しい家族二人に自ら何かと話しかけては気にかけた。 弟に対しては特に。 「学校には慣れたか?」 「うん。みんな優しくしてくれる」 「お前は顔がいいからな、もう女友達の一人や二人はできただろ」 「……そんなのいない、隹は……たくさんいるの?」 隹は式の額を小突いた。 「ちゃんと兄さんって言え」 そんなの、何だか、慣れないし気恥ずかしい。 出会ったばかりの隹を、兄さん、だなんて……。 あっという間に一年が過ぎた。 十八歳となった隹は少年の体つきから成熟した大人へ、幼さを残す丸みがとれてシャープな輪郭となり、どこにいても人目を引くほどに魅力が増した。 一方、式は。 思考は大人びているが頼りない華奢な後ろ姿は少女に見えなくもない。 たった三歳差には見えない兄弟だと周囲によくからかわれた。 ……自分でも本当そう思う。 学校から帰宅し、父親から誕生日に買ってもらった車を洗っている隹の姿を見つけ、式は切れ長な双眸を瞬かせる。 義理の兄は通りがかった通行人、主に女性の視線を集めていた。 最近、長かった髪をカットして短くし、さらに男らしさが増したようだった。 「式、今帰りか?」 「うん」 「週末、親父の別荘に友達と行く予定で、見ての通り洗車中だ。お前も来るか?」 「考えとく、隹」 すると隹は濡れた手で式の額を小突いた。 そう。 式は一年経った今でも隹を兄と呼べずにいた。 週末。 隹に誘われた式は彼の友達と共に湖畔の別荘へと遊びに出かけた。 「式、もちろん夜は私と一緒に寝るわよね?」 「……えっと」 「俺の弟に悪夢を見せる気か、セラ」 「悪夢ってどういう意味よ!」 「繭亡、この鼻息荒い妹をちゃんと見張ってろよ 「ああ、わかった」 顔見知りの兄妹、そして初対面ながらも気さくな年上の人間に囲まれて式は清々しい昂揚感を抱く。 最初は慣れなくて戸惑うこともあったけれど。 隹がいてくれるから、リードしてくれるから、もう平気になった。 この中に隹の恋人がいるのかな……。 その日の夜。 夜更かしの必需品である酒が切れたので、近くにある日用品や食料品も置いてあるガソリンスタンドへ素面の隹が車を走らせている間。 飲みかけのハイネケン片手に酔ったセラが、過保護な邪魔者のいない隙を狙って、オレンジジュースを飲んでいた式の元へ……。 戻ってきた隹は頬を真っ赤にした式を見るなり状況を把握した。 さすがにやりすぎたと反省するセラを一瞥し、騒がしい一階広間から式を連れ出す。 階段を上って喧騒があまり届かない二階の角部屋へと運ぶ。 綺麗に設えられたベッドに寝かせると窓を開いて夜風を入れた。 頭や体が何だかふわふわしている。 ここにいるのに、ここにいないような、不思議な感覚。 「大丈夫か、式」 ふとスプリングが軋んだ。 ベッドに浅く腰掛けた隹が式を覗き込んでいる。 伸ばされた手が上気した滑らかな頬に触れた。 あ、冷たい。 隹の手首を握った式はその掌に頬擦りし、眠りの最中に零れ落ちたような覚束ない声で囁いた。 「……気持ちいい……」 またベッドが軋んだ。 薄目がちに虚空を眺めていた式の視界が不意に暗くなる。 自分の真上にやってきた隹を、彼は、ぼんやり見上げた。 「目、閉じろよ」 式は自分に覆いかぶさる兄を見つめるばかりで目を瞑る気配が一向にない。 そんな弟に、隹は、小さく笑うと。 式の目元を掌で覆った。 束の間の沈黙後、唇に触れた、微熱。 隹の掌の下で式は何度も瞬きする。 自分の身に何が起こっているのか理解できずに問いかけようとしたら。 「好きな奴のことでも考えたらいい」 そんな言葉が降ってきたかと思うと、再び、唇を塞がれた。 キスされている。 義理の兄の隹に。 どうして? 他の人のことを思えばいいって、そんなこと、口にするの? 俺が好きな人、それは……。 微熱が口腔にまで及んで式は小さく呻いた。 ゆっくりと唇ごと濡らされる。 月明かりが差し込むベッドに忙しなく刻まれる衣擦れの音色。 階下の哄笑がか細く聞こえてくる静かな部屋に水音が滴り落ちる。 それが、不意に、止んだ。 顔を上げた隹が式の目元から手を退かす。 塞き止められていた涙が、すっと、こめかみへと流れた。 「……隹……」 涙ぐむ双眸に見上げられて隹は眉根を寄せる。 たった今まで呼吸を奪っていたその唇から「悪かった」という言葉を吐き出した。 「そんなに嫌だったか」 酔いはすっかり引いていた。 あまりにも近い距離にいる隹から視線を逸らすと、式は、切れ切れながらも言葉を紡いだ。 「あんまりにも急だったから……びっくりして、だけど……嫌とかじゃなくて」 「式」 「だって、俺、隹のこと……」 でも貴方は兄さんだから。 俺の家族だから。 その時、式の話に真摯に耳を傾けていた隹は僅かにだが声を立てて笑った。 「やっと呼んだな、式?」と、言い終えるなり再びキスした。 式は隹の肩に両手を宛がい、拒もうとしたが、先程よりも濃厚な口づけに抵抗力を根こそぎ奪われた。 ただしがみつくことしかできなくなった。 隹は肩に縋る式を愛しげに見、華奢な背中を抱いて共に上体を起こした。 横向きにして片腕に細身の体を抱くと、顎に片手を添え、緩み始めた唇をもっと甘やかす。 「んっ」 シャツの内側に滑り込んだ手が直に肌をなぞり、思わず、式は顔を離した。 たどたどしく視線を向けてみれば優しくも鋭い眼差しにぶつかる。 「……くすぐったい」 「お前、初めてなんだな」 「……うん」 隹は式をもっと抱き寄せて誰も触れたことのない肌を愛撫する。 ジーンズのホックに指先がかかると式は一瞬身を硬くしたが。 もう拒まなかった。 隹にその身を委ねた。 取り出された隆起が筋張った五指にやんわりと包み込まれる。 加減した力具合で全体を刺激される。 先走りが零れ、滑り始めると、強弱をつけてしごかれた。 「我慢しなくていいからな」 初めての興奮に必死で耐えている式の耳元や頬に何度も口づけては、華奢な肢体を蝕もうとする緊張を食い止め、隹は次第に速度を上げていく。 「ぁ……っ、隹……もう……」 手の中で膨張する隆起、その先端を集中的にしごき上げながら、隹は。 式の耳たぶを甘噛みした。 「あ……!」 思わぬ刺激に式の背筋はぞくりと震えた。 ほんの一瞬、呼吸を忘れて息を止めて。 大きな掌に煽られるがまま吐精した。 他者から与えられた絶頂に半ば意識を攫われて喘ぐ弟に兄は再び口づけた。 ひたすら甘い熱を延々と注ぎ込むのに夢中になった。 写真を一目見た瞬間から胸の疼きは始まっていた。 一時の気の迷い、錯覚だろうと、接触は控えて食事も旅行もすっぽかした。 そのくせ彼のためのインテリア選びに真剣になって長時間費やしたりもした。 初めて顔を合わせた日に隹は悟った。 俺はこいつのことを好きになる。 きっと、誰よりも、何よりも。

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